たく

金の糸のたくのレビュー・感想・評価

金の糸(2019年製作の映画)
3.6
ジョージアのトリビシに暮らす老女が過去のくびきと向き合う話で、タイトルがどういう意味かと思えば日本の「金継ぎ」の技法が本作の着想の基になってるんだね。いったん関係の壊れてしまった人々が、時を経て現在に収斂される様子を金継ぎに象徴させてるように思えて、三世代に亘る家族の交流が暗い過去を乗り越えて若者に未来を託す感じに描かれてた。ジョージアを舞台にした映画が珍しいと思ったけど、ついこないだ「聖なる泉の少女」を観てたね。

79歳の誕生日を迎えたエレナが、誰も自分の誕生日を覚えていないと嘆いたちょうどその時に、昔の恋人のアルチルから誕生日を祝う電話が入る。いっぽうで娘の姑であるミランダがアルツハイマーを発症したことでエレナの家に同居することになり、この3人の交流が忘れていた暗い過去を眼前によみがえらせることとなる。作家のエレナがプルースト「失われた時を求めて」に共感してるのが象徴的で、過去に囚われて彼女の人生が停滞してることを示してた。彼女が自分と同じエレナという名前の孫と交流することが日常における数少ない楽しみで、向かいの建物に住む若いカップルの痴話喧嘩も、エレナにとっては青春時代を思い出す微笑ましい光景なんだろうね。

エレナがミランダからソ連の高官時代にエレナの著書を発禁にしたことを告白され、彼女に人生を狂わされたことを知ったエレナのショックと、そこから痴呆の症状が悪化したミランダが街を彷徨う姿が描かれて、いよいよ人間関係が崩壊するかと思ったところから、ミランダの善行をアルチルから聞かされたエレナが3人の関係に「金継ぎ」を施すところはジーンと来る。なかなか咲かないサボテンの花が一瞬だけ咲くのは象徴的な演出。電話越しにダンスを踊るエレナとアルチルの幕切れが美しい。
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