九月

ハケンアニメ!の九月のレビュー・感想・評価

ハケンアニメ!(2022年製作の映画)
4.4
業界は全く違えど働く社会人として、ひとりの人間として、主人公に共感する部分が多くあり、思わず胸が熱くなった。仕事終わりに観て良かった。吉岡里帆さん、同年代で、強く憧れるのだけれどますます尊敬、そしてさらに好きになった。

地方公務員を辞めてまでやりたかった、アニメーションの制作。念願叶って、監督として自分のアニメを作ることになったというのに、主人公・斎藤瞳からはその喜びを全く感じられなくて冒頭からびっくりした。
そんな彼女の、働き詰めで疲れ切った表情や佇まい、ピリピリした様子から、周りの人の言葉に耳を傾けたり少し視点を変えたりするだけで、人が変わったように生き生きとしているところまでが丁寧に表現されていて、とても引き込まれた。

自分の好きなことややりたいことを仕事にしている人って、それだけで幸せなのだろうと今まで思っていたけれど、とても勝手な想像に過ぎなかったのだと痛感した。
やりたかったことをしているからこその幸せもあれば辛さもある。

今ではほとんどアニメを見ることがなくなったものの、子どもの頃はよく見ていたし、映画やドラマなどと通ずる部分もあって、無の状態からひとつの世界を創り出すのって本当にすごいことだと改めて感じた。
いろんなものを削って生み出したものが、そもそも人に届くかどうかというところから始まり、それが大勢の人に評価されて、そしてヒットするなんて、果てしなく遠い夢のまた夢のことのように思えた。
そうやって世に放たれた作品が、良くも悪くも自由に評価され、今ではSNSやインターネット上で目にすることも容易い。もともと自分が観たくて観た作品を悪く言うような気にはならないけれど、こういう製作現場を目にするとより一層、作り手以外の人が作品に文句つける資格はないように感じてしまう。受け取り方は人それぞれなのはもちろんだけれど、自分の感覚に合わなかったからといって必要以上の酷評には恐怖すら感じる。

瞳の周りにいる人たち、働いていると出会うような人ばかりで、人物描写が面白かった。特に、出てくる女性たちが魅力的で、皆好きなキャラクターだった。
王子千晴のキャラクターだけどうしても好きになれなかったけれど、こういう人もいるなぁ…私は嫌悪感を抱いてしまったけれど、一方でカリスマ性に惹かれる人がいるということもよく分かる。

サバク組は差し入れのコージーコーナーのエクレア、リデル組はプロデューサー手作りのおにぎりで過酷な仕事を乗り越えていくのを見て、前の職場で残業が続くと夕食やスイーツが支給されていたことを思い出した。「そんなん要らんから早く帰りたい!」と思っていたことも思い出して、辞めた今だからこそ笑える。

少し気になったのは、割と唐突な場面の切り替わりで、サバク(斎藤瞳&行城プロデューサー)側の話なのか、リデル(王子千晴&有科プロデューサー)側の話なのか、序盤混乱してしまったこと
王子千晴が最後タクシーの中で有科さんにかけた言葉がどうしても引っかかるということ
劇中使われていた音楽が、フィンチャーの『ソーシャル・ネットワーク』でトレント・レズナー&アッティカス・ロスが手がけた曲に酷似していたこと
九月

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