九月

オッペンハイマーの九月のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
5.0
ほとんど会話を中心に進む三時間、入り乱れる時系列やロバート・オッペンハイマーの経験してきたことが少しずつ繋がっていく感覚に、集中力が全く途切れることなく入り込んだ。
前知識がなかったために分からない部分や登場人物の多さについていけなかったところも多々あるものの、それでもあまりにも映画的な没入感で、振り払われるようなことは一切なく、知的好奇心を刺激されるようだった。何よりも作品の誠実さに感動した。

いつの世も、科学の進歩や時代に追いつけない人間の倫理観やその愚かさが描かれているのかと思っていたがそういう訳でもなく、あくまでオッペンハイマーの科学者としての人生に焦点が当てられていた。彼や彼を取り巻く多数の人物を、一歩引いた客観的な目線で見ることによって浮かび上がってくるものがたくさんある。そんな作りが素晴らしいと思った。

目を覆いたくなるようなかなり怖くて苦しいシーンもあるが、核兵器を使うことや戦争の異常さ、恐ろしさを今一度思い知ることになる。
また、オッペンハイマーの苦悩がフラッシュバックで表現されているところや、ずっと聞かされ続けた不穏な轟音が最後にまた予想だにしないところで繋がることに大きな衝撃を受けた。
群衆による賞賛と彼の苦悩との対比や乖離に背筋が凍る。
台詞のないシーンでのオッペンハイマーの顔のクローズアップは、言葉はないのに表情から読み取れるものが多くて強く印象に残る。他の映画であれば、IMAXのフルサイズの画面で顔のアップを見ても…と思ってしまいそうなところ、これがまた良かった。
登場人物の関係性や世界情勢、アメリカの背景等、パンフレットなどを読み込んで必ずまた観に行きたい。
九月

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