もーりー

百花のもーりーのレビュー・感想・評価

百花(2022年製作の映画)
4.1
おそろしいほどに写実的な、記憶が消えるという体験の描写。前評判をいい意味で裏切られた作品だった。ひとことで表すなら、記憶のほころびから生まれる違和感を、人を人たらしめる要素として理解させてくる映画。

百花という題に賛否両論あるにせよ、認知症当事者からみた世界の2面性に対して、傍から別視点でストーリーが付け加えられていく構成には驚かされました。悪く言えば乱雑で難解ですが、映画館で観た私はそうは感じませんでした。むしろ直感的な感情の起伏を、カットのつなぎ方で違和感なく提示している感じ。

観ながら特に考えていたのは、認知症当事者の知覚の解釈と映像作品としての美しさ。

認知症を記憶が「消える」というより記憶に「潜り込む」と解釈していたのではないかなと。浅い被写界深度、視覚聴覚にはたらきかける繰り返しの力学、登場人物を際立たせるライティングなどすべてが魔法のように、そして静かに、圧搾された記憶を伝えているかのよう。主人公と同じタイミングで涙が溢れてきたとき、あぁ、好きだなと確信しました。

気になる箇所があるとしたら、KOEのくだりがありきたりすぎて拍子抜けしたのとスーパーのループが長すぎたこと。