このレビューはネタバレを含みます
「どんな人生でも、かけがえのない君と出逢えたことが私の幸せなんだよ」という素晴らしい物語を、死体ボートの屁をエンジンにして無人島脱出する映画の監督が撮ったら、こうなる！確かにぶっ飛びすぎてついていけない人もいるだろうが、前提となる物語のメッセージが素晴らしすぎて、なんか超感動しちゃったよ。
ルックというか展開というか演出のストレンジさは、ボーボボ読者なら受け入れられるはず…はずか？とにかく、話に聞いていた10倍はやりたい放題してるので全員面食らうのは間違いない。ボーボボ読者でも。
なんで警備員が突然マハラジャ状態に変化させられて踊りながら撃ち殺されるんだ。なんでケツに文鎮突き刺したら能力覚醒するんだ。ピザの看板回しのバイトする人生の力を受け継いだ！→盾を武器にすることができた！→無双！！歌手になった人生の力を受け継いだ！→肺活量が上がった！→ガスも攻撃無効化！！一瞬「そうか！」と騙されそうになるがそうはならんやろ！ビュティでもツッコミ追いつけない大量のギャグが仕込まれているので全部に言及するのは避けます。無理です勘弁してください。
大事なのはマルチバースという設定で、どんな人生でも主人公エヴリンは大体同じような隣人達と出会う。その関係性は人生ごとに違うけど。「なんでマルチバースを襲う敵と戦う壮大な物語なのに出てくる人物が毎回同じなんだよ！」とか「そもそも宇宙の危機感足りねえよ！」とか思う人もいるでしょうけど、実はそこは全くポイントではないからね本作。予告でも「マルチバースを襲う敵から世界を救え」って言ってるし何なら本編でもはっきりそう言ってるけどそういう話じゃないから！
エヴリンの想像力が世界線ジャンプのきっかけだったことからも明らかな様に、本作で描かれる「エヴリンの」宇宙は、実はエヴリンが想像できなければ分岐・発生しない。だからエヴリンの知らない人物はモブくらいにしかなれず、どの宇宙でもキーとなるキャラはエヴリンの知人になる。知らない人物は創造できないが、逆に想像できるものなら全部創造できるので指がウインナーになっても巨大ぺ◯スソードが出てきても良い。それがこの宇宙の法則である。でもそれすら本題ではなく、設定の一つなので特に説明されないし私の推測に過ぎないわけだが、それで良いんだよ私の宇宙では本作の法則はそういうことなんだから！
じゃあ何が本題かというと、冒頭に書いたこと。「どんな人生でも、かけがえのない君と出逢えたことが私の幸せなんだよ」という素晴らしい人生讃歌だ。エヴリンはうだつのあがらないコインランドリー経営者で、夫とも娘とも父とも上手くいっていない。こんな人生最低だ…という状況で、件のトンデモ事件に巻き込まれるわけだが、このトンデモナンセンスなマルチバースちんぷんかんインシデントを通して、最低な人生だと思っていたけど彼らと出会えたことは最高じゃん、奇跡じゃん！ということにエヴリンは気付いていく。
あまりにパワフルで優しい愛の物語である。夫、娘、父、嫌味な税務署職員、その他多くの隣人。或いは妻や娘。或いは娘や孫。そして或いは両親や同性の恋人。はてまた、アライグマ。ありとあらゆる関係性の尊さを本作は全肯定する。どんな困難が待っていても君となら大丈夫。ともすれば無責任かもしれない程のポジティブさ。
しかし映画がポジティブなメッセージを発することに責任もクソもないと思うし、大体テーマ、メッセージ以外の何もかもが無責任の極みみたいな映画だ気にすることなんてない！何より、今この時代に最も大切で必要とされているものがこの映画にはあった、気がする。ちょっと涙ぐんだもん。岩が字幕で会話してるところで。人生で初めてだしもう二度とないよ岩が字幕で会話してる場面で泣くこと。
キャストもね、全員素晴らしかった。多分これ書いてる今まさに、アカデミー賞発表されてるところだろうけど出演者全員獲れるレベル。分かりやすく演技が上手い！というスタイルではなく、いるいるこういう人、というか自分こういうタイプだわ、と誰もに思わせる素朴さ、身近さ。その上でボーボボしてるんだから分かりづらいけどエゲツない演技バトルですよ。
ミシェル・ヨーはボンドガールやった時の美貌そのままなのに人生に疲れたオバさんにしか見えないし、キー・ホイ・クァンは私の住んでる町30分くらい散歩しても6人くらいキー・ホイ・クァンに出合いそうなレベルでどこにでもいる冴えないオジさんだし、ステファニー・スーは等身大のムカつく反抗期だし、ジェイミー・リー・カーティス！拍手！
この「どこにでもいる」を限界まで突き詰めた普通の人々による異常な映画。でもその異常さが、日常の素晴らしさを思い出させてくれる。紛れもなく名作です。でも巨大ペ◯スソードが出てくるので両親とか祖母にお勧めできません。困ったもんだ。
