もちもち

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのもちもちのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

破産寸前のコインランドリーを経営するエブリンは、確定申告に悩まされ、頼りない夫ウェイモンドと反抗的な娘ジョイに辟易していた。国税庁の監査官の元を訪れた際、突如ウェイモンドが豹変し、全宇宙の危機を止めるため悪と戦うように告げられる。マルチバースにアクセスし、別次元の自分の能力を駆使して、全宇宙の破壊を目論むジョブ・トゥパキとの戦いが始まる。前評判通りジャンルに捉われないごちゃごちゃでカオスすぎるエンターテイメント作品。マルチバースにアクセスするSF、カンフーアクション、家族のヒューマンドラマ、人生を見直す哲学、バカバカしさ満点のコメディ、回る洗濯機のように、様々な要素が混ぜ合わさり、それでいて上手くまとまっている、とにかく「新しさ」を強く感じる映画だった。素晴らしい映画だけど、この内容でアカデミー賞主要部門を総ナメしたのはほんとに驚き。少し前なら絶対作品賞に選ばれることはなかっただろう。カオスすぎて好き嫌い分かれるタイプの映画ではある。基本ふざけまくってるし、シュールなシーンが多いが、映像表現は唯一無二の独創的な美しさが溢れ、個人的にはどストライクだった。ジョブ・トゥパキの見たことないカラフルなファッションにスローモーションが多用されるアクションシーン、大人のおもちゃでボコボコにした後決めポーズとったり、鎖鎌みたいに犬ぶん回したり。めちゃくちゃなんだけど随所に独特の芸術性があって、次は何を見せてくれるのかずっと楽しみだった。ストーリー自体もそうだけど、全体通して先の読めないワクワク感が常にある。マルチバースにアクセスし、色んな世界を行き来するわけだけど、そこのカットの繋ぎ方が非常に巧み。説明不足感はあるから、多少混乱するしよく分かんない部分もあるけど、一つの物語として上手く構成されている。バース・ジャンプ(マルチバースへのアクセス)の仕方が「突拍子もない変なことをする」という設定も面白い。だいぶバカバカしさに振ったテイストではあるけど、家族愛の部分でしっかり泣ける物語なのもすごい。マルチバースという広大な世界を巻き込んだ物語でありながら、テーマは夫婦や親子というミニマムなものであり、そこに上手く収束していく。カオスをまるでベーグルのように一つの円に収めているのがこの作品の最も凄い点かもしれない。頼りない弱い夫だと思っていたウェイモンド。彼は彼なりに優しさで戦っているのであり、その素晴らしさに気付かされ、第3の目を開眼するエブリン。ステレオタイプな父ゴンゴン、そして反抗的な娘ジョイ、娘として親としてそれぞれの立場で軋轢を抱えるエブリン。もしあの時別の選択をしていたら、もっと素晴らしい人生があったのでは。様々な「もし」の世界を見た上で導き出される、ほとんどが無意味なこの人生の中でも価値ある時間を大切に一緒にいたい、という究極の愛。監督によると、人生は無価値だというニヒリズムを認める映画だということ。確かにジョブ・トゥパキは様々な世界を見た上で、だからこそ全ては無価値であるという思想に着地している。マルチバースのようにインターネットが広がり、多種多様な情報の海の中で、人生に絶望し、悲観的、虚無的に世界を見る若者は多いのかもしれない。家族愛と共に描かれるこの人生観は哲学的で、非常に考えさせられる部分も多い。ただ単に「人生は素晴らしい!」という楽天的な描き方をするのではなく、否定的な面からその意味を考えさせる描き方をしているのは、ある意味凄く「今っぽい」。全体的に「マトリックス」や「パプリカ」「千年女優」といった作品に近いものを感じながらも(というかオマージュしてるんだけど)、やはり圧倒的なオリジナリティと新しさ。自分が分からなかったオマージュも盛りだくさん。「2001年宇宙の旅」のオマージュは笑った。
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