ラスト30分のカタルシスまで、のんびりとロードムービーを楽しもう。
「すずめの戸締まり」レビュー
恋と震災とロードムービーは融合できたのか?
思えば予告編を見て、そんなに心が躍らなかった。
でも3年4ヵ月ぶりの新海誠作品はやっぱり劇場でIMAXで観ねばならないと思い、劇場に向かった。
次男と妻を誘ったが興味なさげに断られた。
でも私は1人でも行く。
それは私にとって「君の名は。」は特別な作品だからだ。
「君の名は。」4.5点
「天気の子」4.1点
そして、本作は3.9点だ。
作品紹介を一言で表すと以下になる。
新海誠監督が、日本各地の廃墟を舞台に、災いの元となる「扉」を閉める旅に出た少女の冒険と成長を描いた長編アニメーション。
果たしてその設定は面白いのか?
その問いかけはNoである。
作劇は壮大なるマッチポンプ劇。
※マッチポンプ劇とは、自分で起こした問題(火→マッチ)を自分で解決(消火→ポンプ)すること。 「自作自演」ともいう。
ストーリーはシンプルだ。
九州で暮らす17歳の岩戸鈴芽(すずめ)は、扉を探しているという旅の青年・宗像草太と出会う。
彼の後を追って山中の廃墟にたどり着いたすずめは、そこだけ崩壊から取り残されたかのようにたたずむ古びた扉を見つけ、引き寄せられるようにその扉に手を伸ばす。
開いてはいけない扉を開き、
地震を止めていた石を解き、
それを回収するロードムービーだ。
宮崎→愛媛→神戸までは同じ繰り返し。
東京→宮城で作品にエモーショナルなドライブがようやくかかる。
すずめの扉を閉める「戸締まりの旅」に付き合う私たちの感情移入度は弱い。
彼女の困難は彼女が自ら引き起こしたもの。まさに後始末に我々も付き合わされるわけである。それが非常に長く感じられるのである。
すずめの旅途中でタイミングよく現れる助け人との交流も小休止にしか感じられなかった。
ただ主人公すずめ役の声優原菜乃華も、椅子になってしまう草太役の「SixTONES」松村北斗も声質、感情の乗せ方も良かった。
他、深津絵里や染谷将太や伊藤沙莉や神木隆之介や花澤香菜も安定的にマッチしている。
が、何より楽しみにしていた新海作品ならではの映像表現には今回心動かされなかった。
キャラクター造形も然り、何より自然描写から都市描写までの新海作品特有の超細密な再現度が影を潜め、既視感ならではか、或いはリアルなトーンを弱めたかったのか、普通のアニメーションと言った感じで目を見張る鮮明な情景描写を求めてIMAXで見た私にとっては、あれ?と肩透かしをくらった感覚だった。
新海監督と3度目のタッグとなる「RADWIMPS」もあまり前に出過ぎず、エンディングで余韻を残したのは良かった。
過去の再解釈。
過去の再受容。
まだ私たちは3.11に対して必要なのかもしれない。
あの時、日常を生きていた市井の人々。そんな無数の人たちの声にもう一度耳を澄まさなければならない。
そして、そんな日常を今も生きている私たちの命を奇跡として味わい、感受していきたい。
確かにそう思った。
そう、テーマはとても大切で、痛切で、そして心に刺さる。
しかし、そんな真剣に向き合うべきテーマと、主人公の動機付けと、作品のほとんどを占めるロードムービー劇が、相関的に成功しているとは思い難い。
物語を先に進め、大災害から人々を救うのは一途なLOVE❤️
それは決して悪くはない。悪くはないし、クライマックスのモーメントで私は今回も涙が出た。出たのだけれど、、、
そこに至るまでの冗長なストロークと主人公の行動原理に、私の感情はドライブがかからなかったのだ。
狙いはわかる。本当に、ものを作るというのは、難しいと思う。
特に国民的大ヒットのその先の世界を描くのは。
本作では、新海誠と川村元気の頭の中が見えた気がする。
彼らの苦悩と作意が透けて見えたとでもいうのだろうか。
でも私は「君の名は。」のビビッドな初期衝動を求めているのだ。
「天気の子」も「すずめの戸締まり」も「君の名は。」というど直球作品を7割薄めた変化球作品に感じてしまうのは、私だけなのだろうか。
また「君の名は。」を見たくなってしまった。
あの時、私の心の奥底を揺さぶり、キュンとしたあの感覚は今回出会えなかった。
あれは本物の青春だった。
大人になっても青春の追体験できるんだと思った。
青春を生きれるんだと思った。
今回、残念ながら私の心の青春の扉🚪は開かなかった。
皆さんの心の扉🚪は開きましたか?