ザリくん

すずめの戸締まりのザリくんのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.0
新海誠の災害三部作史上、
一番直接的な生々しい"畏ろしさ"がありながら、一番"コミカル・楽しい・面白い"(賛否の理由)
そして最も幅広い年齢層に向けた分かりやすい大筋でありながら、最もディテールが難解な作品であった気がする。

「新海誠らしい」という意味で最高傑作は天気の子だと思うが、一番好きなのは今作。
・イケメンが異形(モノ)となってしまい主人公と旅をする。
・可愛い化け物イスと可愛い化け物ネコのチェイスアクション
・デイダラボッチや使徒のようなおどろおどろしいモノノ怪が脅威となる怪奇ファンタジー
・ドライブ・芹澤ズ・カー
が個人的なエンタメ癖にぶっ刺さったので(重いテーマで不謹慎なのは承知で)非常に楽しく鑑賞させてもらいました。

表面的に見たらすっきりと終わるが、随所に裏設定が感じ取れる意味不明な描写が多数あるのがジブリズムの影響を感じる。というか周知の通りモロジブリ。
監督が公言している魔女宅はロードムービーとして勿論、イケメンと異形はハウル、不慣れな世界で労働を真面目にこなす様は千と千尋、靴を脱ぎ駆け出す様はトトロさつき、日本神話の畏れはもののけ姫、等想起させるモチーフ箇所は大量も大量。

巷で問題になっている東日本大震災描写については最後に触れる。

以下ネタバレ注意

1回目見た時は「見易い〜いい着地点〜好きなものいっぱい出てきて楽しい〜割と誠実なお話〜」とすっきりしていたが
2回目は「落ち着いて見たら全然分からん…」となった。君の名はのようにツルッとまとまった娯楽作品ではない。(君の名はは金ローで見たい作品のタイプ)
無限に考察要素が存在する。難し過ぎて感動どころではなかった。肝心な所も一々説明台詞あるので素直に泣けなかった…

前半は異様にテンポ良く進む展開。すずめと旅で出会う人間の触れ合いは必要最小限のみ画面に出し「あとは分かるでしょ?」と言わんばかりにバッサバッサと端折られていく。魔女宅がキキの未来姿を模した人達に支えられていくように今作は家出少女経験がある人達ばかりに支えられるので皆理解がある。🪑草太との絡みはほぼバディとしてだけだったし恋愛主軸じゃないとしても結構薄かった。そもそも終盤で明らかになるように幼少期の常世で草太とは既に出会っているので一目惚れ要素が強いことにも納得は一応いく。学生特有の性急な心情変化とも見えなくはないがちゃんと理由付けはされている。

後半重要になってくるのは喪失の気づきを与えてくれるキーパーソン我らが芹澤。懐メロや東北の景色、その他周りが忘れていたことを思い出させてくれる。

すずめの選択は過去に戸締りをして前を向くものであったがこれは被災者全てに向けた押し付けではない。受け入れないという選択も勿論尊重されるべきであるのは当然承知している。(朝ドラのおかえりモネ等はそちらも丁寧に描写していて良かった) ただ今作のすずめは自己の心の奥底の火傷を忘れかけていた震災孤児であるしまだ若く立ち上がれる気力体力もある、のでこの選択を堂々と見せつける資格は持ち合わせている。暖かい目で見守ってあげたいと個人的に思った。

その他考察あとで書きます、
サダイジンあたりは本当に分からない。
人のプラスの感情に反応する(招き猫的な能力を持つ式神?)ダイジンと対になってネガティブを呼び起こす役割を持ってそうだが、要石から抜けたタイミングも、ミミズ頭に巨大化して向かっていった理由もまだ分からない。
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自分は直接の被災者ではないが、IMAXは本当に怖かった。テレビ放送の冒頭12分や通常上映でも見たが(音声が実際の警報を弄られるせいか)そこまでの緊張感はなかったが、IMAXの音質音響で流されると普通に嫌な汗は出る。公式によって十分に注意喚起はされているが、トラウマ持ちの人はIMAXに近寄らない方が良い。初めてIMAXのネガキャンをした。
加えて、実際の災害をファンタジーにさせてしまうことへの抵抗は仕方ないにしてもあくまで昇華だと思っている。誤解を恐れずに言えばどんな悲しみも怒りも結局はエンターテインメントになってしまう側面はあると思う。現在進行形で戦争が起こり人が大量に命を落とす中で戦意高揚映画であるトップガンは手放しで絶賛された。(自分もトップガン楽しんだ人間なのでそこに批判を向ける気はない) 当事者意識が発生するかどうかで評価が立場地域年代で全く変わってしまう功罪を改めて認識した。
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12月12日のクロ現の監督特集より
創作と"感情を動かす暴力性"は必ず結び付く。江戸時代の安政の大地震は"鯰"を題材にして人々に残された。人間の持っている基本的な機能として、「事実を"物語"として記憶する」というのがあるのでエンタメにした。(意訳部分あり)
この物語論は自分もつくづく思う。江戸時代も鯰なんてファンタジーにしやがって!と炎上していたのかもしれない。

加えて監督は「人々が共感できることを一番に考えている」と語った。
ごめんなさい、新海作品の登場人物、基本的に感情移入できないんです🙇‍♂️
ザリくん

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