風の旅人

すずめの戸締まりの風の旅人のネタバレレビュー・内容・結末

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

新海誠、震災三部作最終章。
今作は過去ニ作と違い、MV的な要素はなく、エモさは控えめになっている。
その分物語としての盛り上がりに欠け、過去ニ作のような展開を期待する観客にとっては肩透かしを食らうかもしれない。
風景描写も今までのように圧倒されるものはない。
物語は淡々と進み、被災地を巡るロードムービーという形を取る。
すずめが行く先々で出会う人々はみんないい人で、悪意を持った者は出てこない。
『魔法少女まどか☆マギカ』のキュゥべえを彷彿とさせる猫のダイジンが唯一の他者として機能している。
ドライブの行程は『ドライブ・マイ・カー』を連想させ、車中で懐メロを流す等、観客の記憶を喚起させようとする演出が目立つ。

一度失われた者は二度と戻らない。
どんなに辛くても、その人の思い出を胸に残された者は生きていかねばならない。
新海誠は過去二作で震災をテーマにしながらも、物語的ドライブによりエンターテインメントへと昇華した。
今作はより直接的に震災を描き、作家性が前面に出た感がある。
椅子になった草太にすずめが座ったり、登ったりする描写は非常にエロティックだった。
今作がどう受け止められるかわからないが、新海誠の真摯な姿勢は評価したい。
物語として面白いかどうかは別問題だが。

11月22日、IMAXで二度目の鑑賞。
今回はダイジンに感情移入して観た。
環さんがすずめに「うちの子になろう」と言ったように、すずめはダイジンに「うちの子になる?」と訊く。
この言葉にはそれ相応の責任が伴う。
ダイジンはすずめに好意を持つが、すずめは草太を椅子に変えたダイジンを拒絶する。
すずめは草太の身代わりに要石になろうとし、ダイジンはすずめの身代わりに要石になる。
ダイジンの心情を察すると不憫でならない。
多くの人間を救うためなら少ない犠牲を出してもいいのか?
前作『天気の子』で帆高は陽菜を救うために自然災害を受け入れた。
しかし今作では大人の事情で恋愛要素を加えた分、テーマがブレているように思う。
今作の選択は思想的後退ではないだろうか?
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