こなつ

すずめの戸締まりのこなつのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.2
過疎化や自然災害という問題を常に抱えている日本という国への哀愁と希望を感じた作品。

「君の名は」「天気の子」「すずめの戸締り」世界に誇る新海誠監督の3部作。
それぞれ自然災害が大きな柱となっているが、地震をテーマにした今回の作品「すずめの戸締まり」は、11年前の震災がまだ生々しく心に残る私達にとっては、多くの人の心を揺さぶる作品になっている。

死を悲しむだけでなく、弔いながらきちんと別れを告げるという意味で、その土地を鎮めて悼むことの大切さを説いた物語。

満席の映画館は、殆どが10代、20代の若者で、震災の記憶や実感がない世代だった。どれだけの人がこの映画から伝わる生きることの尊さみたいなものを理解出来たかわからない。エンドロールが終わり灯がついた時の一瞬の静けさ、じっと何かを思い、なかなか席を立とうとしなかった高校生、君達に向けているメッセージが届いていて欲しい。

物語は、過疎化や災害により増え続ける日本の廃墟を舞台に、九州の過疎の町に叔母と二人で暮らす17歳の鈴芽と、先祖代々の家業として日本中の廃墟にある「後ろ戸」を閉じる旅をしている青年草太が出会ったところから始まる。

草太を追って迷い込んだ山中の廃墟で見つけた古い扉を鈴芽が開けてしまったことで、「後ろ戸」から出てきた不思議な猫ダイシン。そのダイシンの呪いによって、草太が小さな椅子に姿を変えられてしまう。
猫を追い、各地の災害を鎮めながら日本各地を巡る少女と椅子の旅の物語。

何だかコミカルなダイシンが面白い。二人を翻弄しているようで、各地の後ろ戸の案内人みたいになっていた。

草太が閉じ込められた脚が一本欠けた小さな椅子も普通にお喋りするし、自由に駆け回るし、動きがキュートで可愛い。

「後ろ戸」から、地震や疫病などの厄災がミミズとなって出てきて町を覆う恐ろしい場面があるかと思えば、椅子にされてしまった草太を元の姿に戻そうとする鈴芽の切実でコミカルな恋心が可愛くて、重い題材ながらも要所要所に笑いがこぼれる楽しさがあった。

震災やコロナなどの大きな厄災が起きるたび、街が、国が壊れて行くという恐怖や悲しさを味わう。厄災が来るかもしれないという恐怖ではなく、厄災が来ても立ち向かい、幸せに生きる、そんな力強いメッセージを感じた作品だった。

この作品にピッタリで胸が熱くなる主題歌十明(とあか)の「すずめ」や懐かしい昭和の楽曲が次から次へと流れる演出など、音楽的にも惹きつけられ、楽しめた感動作。
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