現実とファンタジーの境を曖昧にし、実は世界で起きていることの裏には本当にこんな事があったのかもしれないと思わせる、そんな説得力のある写実的な演出は新海監督ならではだと思う。
そして、この作品が過去作と違うのは「現実に起こった事」にしっかり触れられている点だ。過去2作もカタストロフィ的な災いがストーリーを動かしてきたが、今回は人々の記憶に新しい「あの災害」が出てくる。そういう意味では、当時被災した人には辛い描写が多い。でもあえてがっつりその「事実」を描くことで、そうした人達に前を向いて生きて欲しいという監督なりのメッセージがあるのかもしれない。
おそらく、すずめと同じような境遇の人達は沢山いるだろう。だが、すずめの叔母さんや草太の友人、道すがら出会う人達、そういう人と人との関わりが、すずめを勇気づけてくれている。どんなに絶望しても人は支え合って生きていけるんだということを物語を通じてこの映画を観た全ての人達に示している気がした。
映画としても思わず笑ってしまうようなシーンや台詞や、テンポ良くハラハラする展開等、しっかりエンターテイメントとして飽きずに楽しく観ることができ、毎回こういうクオリティの映画を作ってくる新海誠はやはり天才と言わざるを得ない。これからもこういう良作を作り続けて欲しい。
