冬眠

すずめの戸締まりの冬眠のレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.7
面白かった。無限に語りたくなる映画で無限に考えたいことがあるけど、ひとまず第一印象だけ残しておきたい。致命的なネタバレは避けた(つもり)。

日本の風土あるいは自然(災害)と土着信仰をファンタジーでラッピングする最近の新海誠作品は、そもそもその世界観と映像表現だけでも十分に物語としての惹きを持ってるのが強い。その作風で現代を描く上ではある意味で避けて通れないのが震災という題材だったと思うけど、最大限誠実で、(不謹慎な言い方だけど)魅力的で、挑戦的な作品だったと思う。テーマがテーマなので徹底して現実と向き合う必要があるわけだけど、前半部分クライマックスでの(特にセカイ系文脈で見るとかなりハッとさせられる)主人公の行動はまさしくそこに実在する人々の命や社会に敬意を払ったものであるし、その誠実さの先にあの踏み込んだ表現、日記に書かれた日付だけで心を持っていかれてしまう。

神の描き方も善悪やモラルを超えていて、それでいてどこか人間臭いバランス感覚がしっくりきて良。どこかで「西洋のホラーは神様に見放される怖さ、日本のホラーは神様に見つかってしまう怖さ」と見たことがあるけど、本作はまさにそれ。土着信仰を描くならこの不条理性は外せん。

ストーリーはある意味主人公が自分のケツを拭くだけの話なので、世界を救うことそれ自体よりも主人公の成長にこそカタルシスの生まれる余地があるところ。しかし、キャラクターとしての欠落(身近な人との軋轢や過去のショッキングな経験からの死生観)がしっかり描かれ出すのが中盤以降なので、急に出てきた問題が急に解決された感がある。全体を通して盛り上がりに欠け、熱くなれずやや薄味に感じたのはこのせいかもしれない(ひょっとしたら自分のアンテナが鈍く、前半にも色々と演出があったのかもしれないし、2週目以降は見方が変わることもあるかも)。

新海誠作品特有の気持ち悪さに今ひとつノれない自分としては、今作でキモさ加減がだいぶ薄く感じられて良かった。特にモノローグははっきり少なかったように思うが、これも自意識や内面よりもリアルな現実の世界に軸足を置いた結果だろうか。秒速や君の名はのような節操ないMV風味も鳴りを潜め、全体的に地に足ついた印象。それだけにいよいよ貫禄が出てきた感じで、ここも好感。
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