新海誠もロードムービーも好きなので満足できた。
前半は道行きならではの好テンポな人情旅であり、後半は重みのある葛藤と再生の旅であって、どちらも良さがある。
イスになった草太はキャラクターとしても面白いし、欠点の無さそうな彼がイスになったことで、すずめが主体となっていく流れもスムーズで良い。
廃墟と異界の結びつきという設定も、不気味なワクワク感があって好みだった。
⚠️以下ややネタバレ
災害、自然との呪術的(神道的？)な関わり、世界か君かという二者択一など、テーマや構造が、前作、前々作とかなり共通するところもあった。
これを円熟期の安定感ととるか、マンネリズムととるかは難しいが、監督としては物語を実際の災害に繋げるためのトリロジーであり、本作が集大成なんだろう。
ただ、正直なところ、前作、前々作のような圧倒的な鑑賞後感は得られなかった。
また、ネコのダイジンらへんは釈然としない点も残る。
東日本大地震を直接的にストーリーに取り入れた点が、とりわけ挑戦的であり、評価の分かれうるところだろう。
単なる事件として描くだけでなく、ファンタジックな作品の中心的テーマとして直接描いたことは確かに問題含みだ。
新海監督も「エンタメとして震災を扱うこと」と語るように、今日の新海作品は純粋な作品と呼ぶには、あまりにコマーシャリズムに攻囲されている。
この点については、実際の被災者の救済や再生に資するかどうかという結果論で判断するしかないかもしれない。
個人的には、すずめの再生に自分を重ねて、これは私のための物語だと感じる人はいるだろうし、その意味では肯定的に捉えている。
と同時に、この映画を十全に評価する資格があるのは被災者とその周囲の人々であって、自分にはその資格が無いとも感じてしまった。この意味で「エンタメとして実際の災害を描くこと」には、まだ反感があるのかもしれない。
