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クローズ・アップのshoooooのレビュー・感想・評価

クローズ・アップ(1990年製作の映画)
4.3
嘘と真の、現実と演技の、微妙な臨界点上を、ずっと写し続けるような特異で素晴らしい映画。
題材、手法、構成がいずれも独創的。

ある男が有名映画監督になりすまして詐欺容疑で捕まった実際の事件が題材。だけど、容疑者も被害者も本人が「演じ」、実際の裁判まで舞台装置にしてしまう。
どこまでが現実でどこからが虚構か分からないのが面白く、またスリリングである。

実際の犯人がカメラに向かって、演じているのではないと語る。もはや演技とは何かが分からなくなる。そもそも人は語る際に何らかの演技から逃れられない。

単に手法上の面白さに尽きないのがこの映画の魅力だろう。
単なる珍事件の再現ではない。事件の背後にある、一角の人物を演じなければやってられないほど、承認や尊敬から縁遠く、苦しい現実の生活がフォーカスされる。
そういう意味で、哀しさと人間臭さの詰まった事件だし、それに寄り添うキアロスタミの眼差しは人間愛を感じさせる。

また、終盤のシークエンスは優しさ、救い、清々しさなどがあって、とても良い。

犯罪者を起用し、映画という行為を通してその罪を赦し、彼の存在を救済するような映画であり、キアロスタミをおいてこのような映画を作れる監督はいないのではないかと思う。
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