shooooo

PERFECT DAYSのshoooooのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.7
光のあたらない全ての美しく善き人への讃歌。

ヴェンダースがこの歳になって日本で撮ってくれたのは本当に嬉しい。
冒頭から体感20分くらいほとんどセリフがない。この時点で「生活」を映し出そうという強い意思が感じられる。

主人公の平山さんは安アパートに住む独身のトイレ清掃人。その情報だけだと傍目から見ると豊かそうにはみえない。だけど、どんな生活でも少しの心がけで世界の見え方が豊かになる。本を読み、植物を育て、フィルムカメラで写真を撮る。毎日の生活を愛する意志さえあれば豊かなのだと教えてくれる。
また、レトロなもののフィジカル性が、デジタルの時代だからこそ独特な淡い光を発する。
そして、役所広司は無口で朴訥で不器用な男がほんとにうまい。

この映画は、かすかなつながりの物語だ。
密接なつながりによって人生を肯定するような物語は世に満ち溢れる。だからこそ、人間関係と呼べるかどうかというラインのかすかなつながりを賛美することに意味がある。
毎日ひとこえ優しく迎え入れてくれる飲み屋の大将、本を買うとひとことだけ持論を語る本屋の店主などなど…
緊密なつながりが当たり前じゃなくなりつつある今日だからこそ、こういった物語は必要なのだ。

毎日同じことの繰り返しを愛する。それはある種の理想でありパーフェクトデイズだ。だから、その権利だけはきちんと主張するし乱されると怒りもする。

だけど、人間である以上、ちょっとのイレギュラーな出来事に心が動いたり救われたりする。
「それが人生で、それでいいんだ」と、ラストカットの平山さんの笑いと愛と涙の入り混じった表情が物語る。
社会的に評価される仕事でもなく、ときに邪険に扱われても、決して自分の仕事に手を抜かず矜持をもってやりぬき、目に触れるすべての人々に愛を注ぐ姿は、人間愛に満ちている。さながら東京の天使だ。

また、平山さんの劇的な過去などを描かないのがいい。物語としての人生としてどうかではなく、「今ここ」の生活としてどうかこそが問題だということ。

終盤の三浦友和との会話もとてもいい。「影って重なると濃くなるか」という疑問に対して、すぐに「試してみましょう」となれるのがいい。悪い意味で「大人」になるということは、疑問をそのまま放置することだとおもう。いい年したじいさん二人が影を重ね合わせるなんて「良識」あるようには見えない。だけど、日常に豊かさを与えようと試み続けてきた平山だからこそ、素直に「おもしろい方」の行動がとれる。

出会えてほんとうによかったと感じられる映画だった。
shooooo

shooooo