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すずめの戸締まりのyのネタバレレビュー・内容・結末

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

新海誠は思い込みの強い映画をつくる。「天気の子」のレビュー読み直してたら、いいこと書いてあった。さすが20年以上新海誠を追っている俺である。
新海誠の映画って、観客へのサービスや開示はそれなりに段取りを踏んで行われているようなのだが、なんだか位相がズレている。
その感じを(多分ある程度意図的にだと思うんだけど、)フル稼働させた序盤20分はヘンテコで面白い…という言い方には語弊があるな、全然乗れなくてそのヘンさが面白い。全然ツカめてなくなくね?という。2022年M-1グランプリのダイヤモンドくらいツカめてない。ただ映画は4分では終わらないので時間をかけてツカみ直していくのはさすが。とはいえまあ、結構ちゃんと客は置いてけぼりになるのだが。

画音のクオリティは圧倒的。
作画もゴリゴリ、キラキラギラギラな画づくりも安定してんだけど、今回とにかく3D背景のクオリティがすげえ。速いワークの見せ場的なショットだけでなく、ゆっくりした時間の流れる移動ショットもちゃんと味がする出来。金も時間もしっかりかかってる迫力がある。後述するハナシの面も含めて、キッチリ日本を代表するアニメーション映画を作ろうという意志を感じる。
シネスコの使い方も良い。風景や表情の味、横移動のダイナミズム。レイアウトのとりかたも盤石。シンエヴァより安定してみえるのは、こっちは凝ったことしようとしてないからかな。

空間の作り方もこなれている。宮崎駿的な舞台の高低軸づかいを東京全体で展開してみせた前作の手管はしっかりと生きていて、東京での立ち回りの舞台の選び方や、水面→学校昇降口→遊園地の観覧車、という展開のさせかたには娯楽映画として正しいリズムと納得があった。多少無理をしてるかな?というくらいに空と地中を使い(ミミズが一回空を経由するのは正しい)タテ軸を作ってアクションを動かし、では劇中でいちばん真っ平な場所は……と思うと、まっさらな被災地にたどり着く。上手い。


地震、震災というものに物語で対峙しようとする、それをしかもファミリー娯楽大作で堂々とやる。少々気負いすぎな気もしつつ、その役割をはたそうという覚悟は頼もしい。それを引き受けた上で、「好きな人のところ!」で突破しようとする姿勢は確信犯的無邪気というべきもので、美点でもあるが最終盤のとっ散らかりの原因でもあり、まあ、そんなとこも新海誠のチャームだと俺は思う。

すずめの個人的なドラマは(ちょいちょい怪しいが)ちゃんとありつつ、天災に対峙する根拠はあくまで広くて狭い日本の中の、すれ違った人々の生活にある。あるいは、その場で想像する、かつて暮らした人々の息遣いが根拠になっている。のがいい。
ここの設定はかなり勢い任せではあるんだが、正直めちゃくちゃ好きだ。生活の実感にもとづく共感と想像。それは(個人的に)この世にいちばん必要なものだと思うから。
この映画の人たちは基本、それで動いている。その共感の素朴な表現は、シニカルまたは極端な理想主義に流れがちな日本アニメおたく監督群のなかで、新海誠がとくべつに持っている感性に基づいている。と、思う。一級の思い込み力を他人に振り向けること。共感と想像。

演出的にも、いままででいちばん、風景論というか、景色や場所に意味のある描き方に(ハナシも含めて)なっていて、新海誠は引き続き、進化していると思えた。画づくり自体はそこまで変わっていないのだが、風景が生活にひもづいて味がするようなハナシになっていて、いい。もともと新海誠の描く風景って、個人の感情を反映して抽象化された風景モドキだった(ので俺はあまり好きではなかった)のだが、そこはさすが自己像と進む先を的確にプロデュースできる新海誠(※)、天気の子の東京都市景観論的な手触りから正統進化して、他者とつながり、主人公に語りかける主体としての風景描写になっている。攻めた作りだし、好きだし、よく出来ているし、より大きな物語を引き受ける覚悟を決めているのだと、俺は思う。ので、嬉しい。
(※ 異論はあろうが俺は長編一作目で"空に聳える一本の塔"をネタにしたあたりから俺は彼のそういう次作の切り口出しのセンスを信じていて、いまのところ裏切られてはいない)


にしてもまあ、けっこう客置いてけぼりではあるんだけど。
最終盤で常世に入ってからは正直くっちゃくっちゃでさっぱり面白くもないんだが、あきらかに祈りとしてこの規模の娯楽映画を作ってしまう新海誠は俺はやっぱり好き。その素朴な祈りが切実さを伴うのは、新海誠の思い込む力の強さあってのものだと思うし。共感と想像。そこに思いや願いが乗ると祈りになる、と言ってしまうとキレイにまとめすぎだとは思うが、まあ、そういう。


あとメシが全然美味くなさそうなのは相変わらず。旅館の食事シーン、インサートされたスマホの質感が比べようもなく芳醇で、笑ってしまった。へんな監督だほんと
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