巴里得撤

生きる LIVINGの巴里得撤のレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
3.8
ミスター・ゾンビが息を吹き返す話。

映像も脚本も端正。そのせいもあって、エモーショナルな盛り上がりには欠けるんだけど、途中から主人公のミスター・ウィリアムズを演じるビル・ナイの佇まいだけで、泣けてくる。

カチッとスーツをキメてジェントルマンを気取っても、仕事ではやってる感を出すだけで、周囲の人ともこころを通わすこともない。

そんな主人公に、生きることの楽しさを身をもって説く、避暑地に住む劇作家と、元部下のミス・ハリス。

しかし、主人公は長い間こころを閉ざして暮らしてきたため、彼らのように生きることは叶わない。

「どうすれば彼女のように生きられるんだろう」

代わりに見つけたのが、情熱を傾けられる仕事だったってのは哀しいけど、ミスター・ウィリアムズが満足できたんだから、それでいい。

考えてみれば、劇作家もミス・ハリスも、何かを求めて日々あがいている。それをまぶしく思うミスター・ウィリアムズ。浮かび上がってくるのはやはり「老い」がいかに残酷かということ。

こころは摩耗し何も感じなくなっていく。

それに気づいたミスター・ウィリアムズは生の実感を求めてあがき、彼なりの「人生の意味」を築く。



映像は実にきれいで、我が家で大ブームを巻き起こした、ソール・ライターの写真を彷彿とされる瞬間が多々あった。

脚本もよく練られてるんだけど、終盤の回想パートがちょっとまどろっこしいかったのが残念。

あと新人くん、いらんかったのと、ミスター・ウィリアムズがなんで嫌われているのかが伝わらず。小説ならよかったかもしれないけど、映画としては言葉足らず。


追伸
音楽もすばらしいんだけど、サントラにミスター・ウィリアムズの歌を収録してないのは大失策!! いますぐ、追加すべし。
巴里得撤

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