ぶみ

生きる LIVINGのぶみのレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
4.0
最期を知り、人生が輝く。

オリヴァー・ハーマナス監督、カズオ・イシグロ脚本、ビル・ナイ主演によるイギリス製作のドラマで、黒澤明監督による1952年公開『生きる』のリメイク。
1953年のロンドンを舞台に、市役所に勤める主人公が余命半年を宣告され、人生を見つめ直す姿を描く。
主人公となる市役所の市民課長ウィリアムズをナイ、彼の部下で転職を考えているマーガレットをエイミー・ルー・ウッド、新人職員をアレックス・シャープが演じているが、名作とされる黒澤明監督によるオリジナル版は未鑑賞であるため、オリジナル版との違いや話の展開等は全く知らない状態での鑑賞。
物語は、あらすじで書いたように、真面目を絵に描いたような公務員ウィリアムズが余命宣告されたことにより、変化していく姿が描かれるのだが、冒頭、輪郭がぼやけているオープニングクレジットのフォントに始まり、4:3の画面サイズ、ざらついた映像の中を赤色が鮮やかな二階建てのロンドンバスが走り回る様は、現代のそれではなく、まるで戦後当時の作品を観ているかのようで、一気に本作品の世界観に引き込まれることに。
リメイクするにあたり、ナイがまずキャスティングされたとのことであり、市民からの陳情はたらい回し、問題は先送りにし、判子を押す毎日を過ごす市民課長ウィリアムズを演じたナイはザ・英国紳士の雰囲気満点でまさにハマり役。
また、オリジナル版とほぼ同じ時代設定であり、今でこそ、市民ファーストの目線で、様々な手続の一元的な窓口となるワンストップサービス等が多くの役所で置かれている反面、前述のような公務員像に加え、セクショナリズムが強かったり、誰を向いて仕事をしているのわからないような職員の姿は、国は違えど、当時のスタンダードを見事に具現化している。
そんなウィリアムズが、余命宣告されて初めて生を見つめ直すという展開は、いつの時代も王道かつ普遍的なテーマであることから、ある程度結末がどうなるのかも見えてくる内容なのだが、それだからこそ、投げかけてくるメッセージもストレートであり、日頃意識することのない「生きる」を考えるきっかけを与えてくれるものとなっている。
本作品を観た後、以前観たドキュメンタリー『フリーソロ』で、命綱をつけないロッククライマー、アレックス・オノルドが『登ることで「生」を実感できる』と言っていたことを思い出し、彼ほどではないにせよ、死を意識することで生を感じるという感覚は、本当に死と隣り合わせにならないと真に得られないものなのだろうなと思いながら、生きるということを、心のほんの片隅に置いておくと、日々が少し変化していくのかもと思わせてくれるとともに、ブランコに乗るウィリアムズの心情に思いを馳せることとなる良作。

私に怒っている暇はない。
ぶみ

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