横山ミィ子

魂のまなざしの横山ミィ子のネタバレレビュー・内容・結末

魂のまなざし(2020年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

フィンランドは遠い国、通貨ひとつ馴染みがない。現地の人々には当然のことかもしれないが、見ていてよくわからない点はところどころあった。それでもこれはストーリーを追う映画ではなく、ヘレン・シャルフベックという画家の、ひとりの女性としての側面を描いた作品であり、細かい不明点はそれほど重要でない。そう思ったのは、彼女の絵画制作そのものに対するエピソードがそれほどなかったからだ。毎日の掃除、皿洗い、食事、そして恋、失恋。女性の低い立場、家族とのいさかい、友達との支え合い。画家という存在の裏にあった日常が静謐に描かれる。

だからこそ原題は「HELENE(ヘレン)」であり、「ヘレン・シャルフベック」ではないのだと思う。『魂のまなざし』だと、画家としてのヘレンに注目しがちにならないだろうか?「ヘレン・シャルフベック」という画家を日本に紹介する、という意図もあったのだろう。私自身この映画でヘレンを知ったし、その作品もこれから注目したいと思う。しかし映画のテーマとはどうもずれてしまっているような気がしてならない。

主演のラウラ・ビルンによる、おおげさでない、空気の動きのような、ヘレンの気持ちの表現は見事であった。あんなにイライラとアトリエの時間を過ごしていたヘレンが、エイナルの前では少女のような瞳になった。また、この映画の見どころとして、フェルメール、ラ・トゥール、ゴッホなどの名画を模した場面の数々も欠かせない。公式サイトには紹介がないようだが、パンフレットには解説がついていた。日常のシーンでも森や海、ヨーロッパの重厚な建造物も、音楽とあいまってとても美しい。美術ファンならずとも絵に魅了されることだろう。いい映画に出会えたと、心から思う。
横山ミィ子

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