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魂のまなざしのSPNminacoのレビュー・感想・評価

魂のまなざし(2020年製作の映画)
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画家ヘレン・シャルフベックの目とその絵で物語る孤高の肖像。暗く陰気な家で険しい表情をしたヘレンが描く自画像や人物画は、どれも一人の姿だ。
絵を買い付ける画商と共に現れ、個展会場でカーテンをずらし外光を入れるエイナルは、そんなヘレンに光をもたらす。彼の前で初めて笑顔を見せるヘレン。けど、親密になって惹かれる気持ちを隠しきれないヘレンに対し、若いエイナルの仕打ちは淡い期待を打ち砕く。絵が高く評価されても本当に欲しいものは手に入らない。光が差し込んでは暗闇に戻される。
ヘレンの収入を当然のように当てにする兄、罵り合うばかりの母。人の残酷で醜い面を見続けて、傷心に沈みながら、それでもヘレンはそのような人をモデルに描く。パリの猥雑で汚いところが好きだと言う彼女は、現実の敢えて暗い面を愛してもいるのだ。それはヘレン自身もそうだから。嫌味ばかり言う母親と「何か言うと怒らせてしまう」と自嘲する娘は、どちらも鋭い目をして孤独だ。
憎む部分と愛する部分を切り離せない現実や、清濁併せ持つ人間の本質を見つめ描いたのがヘレンの絵の魅力だと映画は伝える。それを端的に象徴するのが、優しく人を傷つけるエイナルとの関係だった。結局ヘレンはその矛盾した愛を最後まで手放さない。
でも、掴み所ない男よりも母や女同士の関係の方が強固だった。誰よりヘレンを愛したのはずっと寄り添い支え続けた親友ヴェスターだろう。「女のものは男のもの」そんな時代に当然の自由と権利を主張する女同士のシスターフッド。唯一変わらぬ光の存在。孤独じゃない、彼女がいるではないかと言いたくなるが、この気高く懐深いヴェスターをモデルに描くのは、ようやくヘレンが自分の孤独を受け入れる時だからちょっと切ない。もしかしたら、闇の中から見る彼女は一番近くにいて眩しすぎたのかもしれない。
すべてが去った後に残るのは白紙。現在美術館が所蔵するヘレンの絵の中で、最後に映された絵には余白が残っている。どれもモダンで良い絵だったな。
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