コマミー

エンパイア・オブ・ライトのコマミーのレビュー・感想・評価

エンパイア・オブ・ライト(2022年製作の映画)
3.9
【心の闇に光を灯す場所】




"サム・メンデス"にしては小規模な作品であったが、それでも"ロジャー・ディーキンス"の"暗闇に光る灯り"とそれをバックに映す人間の姿がとてつもなく綺麗な作品となっていた。ロジャーの数々の撮り方の中で一番好きかもしれない。

本作はイギリスの海辺の映画館'エンパイア劇場"で働く、"ヒラリー"と言う女性スタッフと新しく就いた黒人の青年"スティーブン"に特に焦点を当てて物語が紡がれる。
ヒラリーは過去にとても"辛い事"があり、"重い精神病"と闘いながら劇場に勤務していた。そんなヒラリーに性的欲求がある劇場の支配人"ドナルド"は、彼女にほぼ同意なく性交を行い、彼女のプライドを傷つけていた。いつまたヒラリーの鬱憤が爆発してもおかしくなかった。
そんなヒラリーの前に現れたのが、スティーブンだ。スティーブンは、一件温厚で知識豊かな黒人の好青年だが、彼は日々、"社会的な抑圧"に苦しめられていた。"黒人差別過激派"の人達からのいじめや抑圧的な態度を日々浴びせられていたのだ。"あるシーン"でのスティーブンの姿はとても見ていられなかったし、今よりもっと黒人差別の"過激派の横行"が酷かったのだなと感じさせた。

ヒラリーに対する支配人ドナルドの"振る舞い"が、現代日本で言うアップリンクの浅井隆氏が起こしたハラスメントやら演劇界の性的ハラスメントを想起させ、とても胸糞悪かった。本作は限りなく"現実に近い形"で作られた作品だと聞いたので、今も昔も劇場での"女性への抑圧"は行われていたのだなと背筋がゾッとした。現実に近い形と言えば、このヒラリーと言うキャラクターは、"監督の母親"のセラピーでの体験を基に作られたキャラクターで、ヒラリーが行うセラピーの数々は監督の母親が経験したものであった為に、それを参考に"オリヴィア・コールマン"も役作りを始めたと言う。

"トビー・ジョーンズ"が演じた"ノーマン"と言う"映写技師"の立ち位置も良かった。過干渉をしないし、敵にもなり得ない、とても"中立な立場"に立っているのがノーマンと言う2人にとって温かい存在になっているのだと思ったからだ。


本作を通して、映画館と言うものは人々を抑圧するものではなく、"暗い心に光を灯し"、劇場を後にした頃には、それが次の人生に踏み出す"動力源"となるべき場所でなくてはならないなと感じた。それは客だけではなく、そこにいるスタッフもだ。スタッフも一緒に心や想像力が"豊か"になれる…そんな空間がエンターテイメントの世界に広がればいいなと心から感じた。
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