叡福寺清子

エンパイア・オブ・ライトの叡福寺清子のレビュー・感想・評価

エンパイア・オブ・ライト(2022年製作の映画)
3.6
寂れた映画館の女オーナー(オリヴィア・コールマン)と,そこに集う人々との交流を描いた静かなる作品(コロンバスとかアフター・ヤン的な)かと思ったら,意外と生臭い話でちょっと驚いた三遊亭呼延灼です.こんばんわ.

時代は「炎のランナー」がプレミアム上映されるような80年代初頭.海辺の映画館『エンパイア』の統括マネージャーであるヒラリー・スモール(コールマン)さん.かつて精神疾患で入院した過去を持つ彼女でしたが,現在は病状も安定し日々の勤務になんら支障はございません.そんなある日,黒人青年のスティーブン君がバイトとして勤務,少なからぬ好意を抱くヒラリーさんですが・・・

注目すべきは二点.一つはヒラリーさんとスティーブン君の障害多い恋愛模様.年の差,それもヒラリーさんの方が上,白人と黒人,精神疾患歴あり,と知人に相談されたら,不幸になるから止めなって忠告するレベルに障害がある恋愛.作中でも(職場の助平はともかく)人目を気にするシーンが何度も垣間見えました.さらには,黒人と白人が付き合う事の意味を,ヒラリーさんが無自覚な事もある意味障害でしょう.スティーブン君が言い出したことはそういう事であって,ヒラリーさんが勝手に誤解し症状がぶり返してしまうのは,今なら痛い女性扱いされましょう.ただ,暴走したヒラリーさんが,不倫をぶちまけて修羅場ってるのに,うっすら「炎のランナー」のあのテーマ曲が聞こえてる状況はかなり面白かったです.
テーマ曲といえば,劇伴にトレント・レズナーの名前がございました.「ボーンズ・アンド・オール」に続いて同時期製作作品に名を連ねるとは,どんなけ仕事してるんですか,この方は.そして祖母にプリティ・ヘイト・マシーンと呼ばれていた(大昔ロッキング・オンでそういうエピソードを読んだ気がするんです.ちょっと調べましたけど,追認できないので私の勘違いかもしれません)あの方が,あんな美しい旋律を産み出すとは,お釈迦様でも想像できないってことでしょう.

そしてもう一つの注目点は,もちろん差別.人種差別については多くの方が指摘されてらっしゃいましょうから,ちょっと捻くれた視点でレビュります.
エンパイア劇場に勤務するようになったスティーブン君.フロア係として,お客様と相対します.ある日,歪な歩行をなさる老人がお客様として来館.真似をして笑いを取るスティーブン君.客商売に従事するに相応しい行動ではないと嗜めるヒラリーさん.真摯に反省するスティーブン君.ん?ちょっと待てぃ(千鳥風に).スティーブン君,君そこに滑稽だと嘲笑し,バカにする意識なかったか?君は侮蔑される悔しさとか知ってるはずなのに,他人は嘲笑うのか.まるで,人種差別されたと憤慨している黒人が亜細亜人差別してるようじゃないか.私にはそう見えたぞっと.
人が誰しも,被害者の立場には敏感ですけども,加害行為に対しては鈍感なものです.サム・メンデス監督がどこまで意識して,そのシークエンスを挿入したのかは不詳ですが,私には記憶に残りました.

にしても,職場助平・・・ホンット,アイツラ見境いないのな.