かなり悪いオヤジ

エンパイア・オブ・ライトのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

エンパイア・オブ・ライト(2022年製作の映画)
4.0
Film.
It's just static frames with darkness between.
But there's a little flaw in your optic nerve.
So if I run the film at 24 frames per second,
it creates the illusion of motion.
An illusion of life.
So you don't see the darkness.
Out there, they just see a beam of light.
And nothing happens without light.

なんて詩的な台詞なのだろう。テニスン、オーデン、ラーキンの詩を劇中印象的に散りばめながら、メンデス&ディーキンスコンビが映画文化そのものへのオマージュを(過去作の切り出しやパスティーシュといった安易な方法ではなく)英国エスタブリッシュらしくあくまでも詩的に語った1本なのである。

英国南部の古びた映画館エンパイア劇場の従業員ヒラリー(オリヴィア・コールマン)は、精神疾患の持病があったサム・メンデスの実母がモデルになっているという。コロナ禍でロックダウン状態だった時に、二度と映画館に映画を見に行くことができなくなるのではないか。そんな不安に駆られながら思いついたシナリオらしい。劇場で放映される実際の映画は、ティーンだった頃メンデスが実際に映画館に足を運んで見に行った思い入れのある作品だという。

当時の英国は、サッチャリズムが吹き荒れ、仕事にあぶれた白人の若者たちがフーリガンのごとく暴れまわり「俺たちの職を奪うな!」と黒人への差別を強めていた時代。劇場支配人(コリン・ファース)から性的搾取を受けていたヒラリーは、劇場に雇われた黒人アルバイトスティーブンと恋仲(オバサンのくせにこのヒラリーかなりモテモテ♥️)になるが、持病が再発、精神のバランスを崩してしまう。

心にそれぞれの“闇”を抱えた2人が、今では廃墟となっている劇場の階上テラスで愛を確め合うシーンなどでは、名カメラマンロジャー・ディーキンスならではの映像美を十分に堪能できるだろう。やがてスティーブンが白人暴動の犠牲となると、自然消滅的に2人の愛も闇の中.....しかし、本作品の“ファイ効果”が2人の関係に再び“光”をもたらすのである。劇場に勤めていながら、職務への忠誠心から映画を観たことがなかったヒラリー。そんなヒラリーが映写技師のセレクトで観た最初の作品は、ピーター・セラーズが知的障害の庭師を演じた『チャンス』だったのである。

実はこの映写技師ノーマン(トビー・ジョーンズ)には8才の時以来会っていない子供がいて、ヒラリーが子供が親父に会いたがらない理由をきいても、このノーマン「思い出せない」と答えるのだ。そんなに辛い過去(闇)をも“光”で埋め尽くしてしまうほどの力が映画にあるのなら、是非自分も試してみたいとヒラリーは思い立つのである。自らの暗い思い出を消し去るために...

「人生とは、心のありようだ」(映画『チャンス』より引用)