ひでG

ティルのひでGのレビュー・感想・評価

ティル(2022年製作の映画)
4.1
昨年後半に確か地元のイオン系で1日1回上映で公開していた。その時も観に行きたかったが、あっという間に配信され、さっそく視聴。
でも、こーゆー実話のつら〜いお話はやはり
映画館で観た方がよいなって改めて思った。
それは、音響とか迫力のことでなく、観る前の覚悟に関してだ。

1955年、ミシシッピー州の小さな町で、シカゴから親戚に家に遊びに来ていた14歳の黒人少年エメット・ティルが白人にリンチされ殺される。
ティルの母親メイミーは、この事件を世間に知らしめようと懸命に活動するが、全員白人の陪審員は無罪評決を下す。
とんでもない判決は覆すことはできなかったが、この事件をきっかけに公民権運動がさらに広がっていったそうだ。

こんなに重く、重要な事実を伝えていると知らずに配信観出したのですが、少なくとも映画館での鑑賞なら最低限の知識なり予想なりが備わっている。それにより、厳しい現実とも2時間付き合うという覚悟のようなものが出来上がっている場合が多い。

でも、この朝の僕は、観る映画を決めておらず、リモコンを操作して、昨年公開作だ!と軽い気持ちでチョイスしたので、このあまりにも辛い事実と対峙する覚悟が足りなく、前半意識的に気を逸らしていてしまっていました。(ごめんなさい)

でも、そんな甘っちょろい僕や単に黒人の少年の事件と安易に考えていた当時の人々をも変えたのは、ティルの母親メイミーの命懸けの行動だった。

冒頭、メイミーのティル(ボボと呼ばれている)への態度は、過保護とも思われるほどで、当時あからさまに黒人差別が行われる南部への旅行をとても心配している姿が映し出される。
極々一般的な母親だったメイミーが一番大切にしてきた人と突然無惨この上ない姿で対面することになる。
泣き崩れ、悲しみに叫ぶメイミーは、リンチで元のあどけなさが全く残っていない棺の中のボボをみんなに見せるという行動に出る。
悲しみ絶頂の遺族が闘う遺族になる瞬間だ!

そう、彼女は、愛しい息子を奪った事実を突き止め、裁きを受けさせるために立ち上がるのだ。

観終わった後、ネットの資料を読むと、この作品の脚本と制作に携わったキース・ボーシャンという方、生涯にわたりこの問題に取り組んできたとのこと。
アメリカ人にもあまり知られていないこの事件の映画化を「これは映画ではない。社会運動なのだ。」とインタビューで語っている。

実際の母メイミーの命懸けの闘い。それを見事に再現したメイミー役のダニエル・デッドワイラーさんの魂の演技。

そして、あえて加害者の側の描写を最小限に制限したことで、もっと深い怒りと憤りを観客に与えた見事な演出と編集のシノニエ・チュクウ監督。

何より実際のメイミー婦人とも親交があり、この映画化に人生をかけてきたキース・ボーシャンさん、インタビューのお言葉も深く私の心に刻まれた。

ふらっと観て、ちょっと休みの朝にきついな、なんて一瞬思ってしまって本当にすみません。
エンドクレジットにこれほど怒りが込み上げてきた映画はありませんでした。
こんな理不尽なことが起こっていたとは!
憤りが込み上げてきました!

自分に何ができるか分かりませんが、差別を憎み続け、差別を少しでも容認する為政者たちを憎み、そして、この映画を多くの方に広めたいと思います。
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