MasterYu

TAR/ターのMasterYuのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.1
指揮者としても作曲家としても称賛され、ベルリン・フィルで女性初の首席指揮者となったリディア・ター。
自己プロデュース力にも長けた彼女は揺るぎない地位を築いたが、様々なプレッシャーも受けていた。
そんな彼女に、かつて指導した若手指揮者が自殺したという報せが入り、それが切っ掛けで徐々に歯車が狂い始め・・・。

ケイト・ブランシェットの圧倒的凄みを骨の髄まで堪能できる、繊細且つ大胆に作り込まれた作品だったと思います。

冒頭からいきなりの伏線貼り、エンドクレジットからのオープニング。
そしてリディア・ターの公開インタビューにおけるセリフの洪水で、ケイト・ブランシェットの役の作り込みに早々と驚かされる。

そうした脚光を浴びる表舞台から、舞台裏へと視点が移っていくと、ターを頂点としたヒエラルキー構造が明確になり、元恋人で指揮者を目指すフランチェスカのことは執事のように扱い、ジュリアード音楽院では学生にアカハラ、パートナーでコンサートマスターのシャロンには家事全般を任せ切り、ベルリン・フィルの副指揮者セバスチャンは自己判断で解雇、等々。ターの人間性を描き続ける前半は起伏はないものの、えも言われぬ緊張感があります。

最初の公開インタビューで映る赤髪の女性が以降もチラチラ映り込んでくるのも怖いし、指導していた若い指揮者クリスタの自殺の報から「音」に悩まされるターが、取り憑かれたような表情になっていく様は完全ホラー。

築いた地位から転げ落ちたターがフィリピンの地に立ってからのエンディングは、様々な解釈ができる余地があるものでしたが、あれはターにとって屈辱的なエンディングであるのか、或いは再び再起の場を得たものと捉えるのか?
オルガを追って入り込んだ廃墟のシーンから、ターの精神世界が崩れ始めたと考えると、前者でも後者でもなく現実なのか?虚構なのか?という選択肢も生まれる。

差別や権力構造の歪さ、キャンセルカルチャーを扱いながら、こうしたゾクッとするホラー要素も加わっているところが面白いところ。
158分と長尺なので、前半で入り込めないと評価は著しく変わってくる感じですが、私的には鑑賞後に長らく余韻に浸れる作品でした。
MasterYu

MasterYu