藍紺

TAR/ターの藍紺のレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.3
前半と後半では全く違う物語。時間の流れ方も前半は緩慢で冗長さすら感じたが、後半は展開が早いし移動が多くて良い意味でどこに着地するのか全く分からなかった!いや、凄い作品だわこれ。

天才指揮者リディア・ターの栄光と転落。繊細だけど傲慢、権力を行使して人を意のままに操るモンスターをケイト・ブランシェットが見事に体現していて釘付けになった。冒頭、本人へのインタビュー映像が異様に長いんだけど、この内容がちゃんと終盤の伏線へと繋がっている。我々が感じた違和感がああそうだったのかと腑に落ちた時、彼女に対して憐憫のような何とも不思議な感情をもった。

ターの横暴でパワハラ気質なところは到底擁護は出来ないけど、芸術至上主義で音楽を愛し、音楽に身も心も捧げている純粋さを彼女は持っている。にも関わらず権力を持つと人はこんなにも愚かになってしまうのか(政治家がダメになっちゃうのわかる気がする)。権力構造に取り込まれると、誰もが欲望の暴走に身を投じ、歯止めがかからないって恐ろしい。

ラストは悲劇にも喜劇にもとれると思うが、私は前向きなメッセージを感じた。しぶとくしがみついてでも、もう一度芸術に生きる決意をしたのかなと。ただ、今作は登場人物たちの胸の内が全く分からない。真相は闇の中だし、ターが反省しているのかも描かれない。観客に丸投げ状態なので人によってはそこが引っかかるところではあるだろう。しかしそれこそがトッド・フィールド監督の狙い通りらしく、自分もまんまと心乱され、気が付くと今作のことを考えてしまう。もう一回観たらまた違う感じ方が楽しめそう。

個人的には今作でアカデミー主演女優賞を獲ってほしかったなと思えるくらいケイト様の演技は素晴らしかった。引退したいって言ってる記事を読んだけど、まだまだあなたの作品を待ってます!
藍紺

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