はる

TAR/ターのはるのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
5.0
繰り返し観るとどんどん面白くなる!!

とりあえず3回観たんですけど回を重ねるごとに新しい発見があって初見時よりもかなり評価が上がりました。

ケイト・ブランシェットだからこそ成立したであろうリディア・ターというキャラクターがとても面白いんですよ。立ち振る舞いはカリスマ性抜群のカッコよさでありながら、学生や子供に対しての容赦ないソシオパスっぷり、楽団のメンバーに対するグルーミングといった部分は傲慢そのもの。その結果、過去の教え子のクリスタが自殺し、順調と思われたキャリアに影が差します。

中盤の女性の叫び声が聞こえたり、寝室に一瞬だけ写る人影などといったターの妄想のような表現はホラー映画さながらの怖さがあります。初見時はあまり気に留めなかったシーンでも繰り返し観ることでその先の展開を予知しているものの存在に気づきました。特にショーペンハウアーのエピソードやクリスタから送られてきたヴィタ・サックヴィル=ウェストの『挑戦』などですね。それに各キャラクターの目線ひとつ取っても感情を繊細に表現していて面白いですよね。

衝撃のラストを迎える本作ですが、個人的にはバッドエンドでありハッピーエンドでもあるという稀有な印象を受けました。これがもしターには指揮の仕事はもう無いという結末ならバッドエンドだったでしょうが、今回の場合はあの売春マッサージの店で自分の傲慢さに気づいたターからは憑き物が落ちたような清々しさを感じ、バーンスタインに憧れたあの頃のように気持ち新たに0からのスタートだ!とター自身は前向きな想いでいるような気がします。ただ客観的に観れば落ちぶれたマエストロと痛々しい姿であることも間違いないので、見方によって感触がかなり異なってくると思います。

また繰り返し観ると思うので、今後さらに自分の中で評価が上がっていく作品のような気がします。ケイト・ブランシェットはやっぱり歴史に名を刻む名女優であるとまざまざと見せつけられました。
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