平成2年の男

TAR/ターの平成2年の男のレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.0
・みえる。みえるぞ。全世界のLGBTQの困惑している顔が。

・ケイトブランシェットのベストアクト作品とされているのも分かる。頭の良い作家にしか頭のいい登場人物を描けないように、カリスマは、カリスマのある人物でしか演じられない。彼女は難題を見事にこなしてみせた。

・これだけ長尺になったのも、ケイトの演技がシーンとしてキマリすぎて、切るのが惜しくなった結果としか思えない。いずれのショットも芸術点が高すぎる。

・「人の本質が最もよく表れるのは、別れ際でもお金を持った時でもない。権力を握った時だ」という便所の落書きを思い出した。

・ター氏のような捕食者でないと到達できない高嶺があるのも事実であり、被食者に対する葛藤を気質的に持たないことも才能のひとつなのだろう。憎まれっ子、世に憚るとはうまいこと言ったものである。

・要するにこれは、音楽に能力ポイントを振りすぎた女性がたまたまレズビアンで、色々と空転した結果、追い詰められてしまう物語、という理解でよろしいのでしょうか。

・ター氏がジュニア時代のメダルを首に下げて、旧宅でビデオを観るシーンには胸にくるものがあった。ター氏は、音楽に対する洞察と感受性が鋭敏に過ぎて、そこから汲み取れる人間的な温もりを、絶対的な真理として大切にし過ぎてしまった、という側面が鮮やかに描かれている。このシーンで終わらせときゃ完璧だったのに、と思う。

・ラスト5分が私には難解すぎました。どういうこと? 潔癖のきらいのある彼女が某国で指揮棒を振るう決断をした点に、彼女の成長がある、という解釈が正解ならば、あまりにおセンチなクローズと言わざるを得ない。