Kuuta

モリコーネ 映画が恋した音楽家のKuutaのレビュー・感想・評価

3.7
・コヨーテの鳴き声とか、こんな突飛な音の発想どうして出来るんだろう?と思っていたが、即興演奏や実験音楽にこれほど思い入れのある人だとは知らなかった。最小限の音で状況を描く「ウエスタン」冒頭20分の解説には膝を打った。

・二つの顔がある作曲家。音楽家としての純粋さを捨てたという劣等感。「自分は裏切り者」。周囲の音楽家に認められず、アカデミー賞も取れなかった。

映画界のマカロニに対する差別意識だけでなく、彼はアルジェントとも長く仕事しているが、ジャッロやホラーも馬鹿にされていたという背景はあるのだろう。彼は「大衆向けの音楽」「ジャンル映画」という二重の枷に苦しんできたと言える。

対位法を得意とし、別ジャンルの音楽に生活音まで自由に組み合わせる。彼のスタイルと映画が相性が良い理由がわかるし、曲作りが彼の生き方にも重なってくる。

・「ウエスタンへの復讐であり決別」として臨んだヘイトフル・エイトでアカデミー賞を受賞。タランティーノのモリコーネを褒めるやたら大袈裟な語り口はなんだかなぁと思うが、結果的に最高の花道を作ってあげている。

・映画音楽の地位向上を仕事を通して実現してきた。「殺人捜査」での場面に合わせた音の展開。ワンスアポンアタイムインアメリカでは音楽を流しながら撮影した。映画音楽が映画を動かす、の極地。

・細かいエピソードも面白い。荒野の用心棒のクライマックス、レオーネはリオブラボーの皆殺しの歌のアレンジ版を使おうとしていたが、モリコーネが断ってオリジナル曲をつけた。時計じかけのオレンジのオファーがキューブリックから来たが、レオーネが認めなかった。

・膨大な仕事を初期から振り返る大ボリュームのドキュメンタリー。名曲、名作のつるべ打ちなので当然泣けるが、最後の方は絶賛しかないのでややくたびれてくる。多角的な分析というよりは、みんな大好きモリコーネ、という視点。生前最後のインタビューとしてそれで良いといえば良いのだが、トルナトーレの「わかりやすさ」は今作でも絶好調でややモヤる。
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