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彼女のいない部屋のらのネタバレレビュー・内容・結末

彼女のいない部屋(2021年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

物語は時間と空間、現実と想像(幻想)を複雑に行き来して観る者をミステリアスな世界に巻き込んでいく。なぜこんな断片的でややこしい編集・構成になっているのかという疑問は、やがて明らかになる。この物語は、そのまま主人公クラリスの頭の中で混じり合う現実と想像によって紡がれたものであったのだ。人間の思考のプロセスを思えば、この断片的に飛躍する構成にも納得がいく。

この映画は、事実が明らかになることによる伏線回収や謎解きの快楽を第一とする映画とは明確に一線を画している。実際、秘密は最後の最後まで隠されているわけではなく、途中から徐々に明らかになっていく。全てのストーリーラインを知っていても作品としての強度は落ちそうにないし、むしろ知った上で観た方が楽しめるのではないだろうかとすら思う。とにかく全編を通して流れる不穏さと美しさ、それから主人公クラリスの振る舞い自体、彼女の喪失が「取り返しのつかないものである」と明らかになるにつれて徐々に増していく叙情性にこそ惹かれてしまう。
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