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左様なら今晩はのatsukiのレビュー・感想・評価

左様なら今晩は(2022年製作の映画)
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萩原利久は、好意を持たれている同僚とは向き合おうとはしない。隣に座る(会社のデスク、居酒屋のテーブル、部屋のソファ、スナックのカウンター)という同じ方向を見るだけ。しかし、萩原利久だけが見ることができる久保史緒里=幽霊とは見つめ合うための視線劇があった。「こんなところで寝てたら風邪引くぞ」→ 萩原利久側からの非接触〜「男の人の喉仏ってずっと触ってみたかったんじゃ」→久保史緒里=幽霊側からの接触。寝室における構図=構図の切り返しから見つめ合う2人を捉えるため、横位置にカメラは据えられる。そこで萩原利久側からの接触は達成されていた。見つめ合うことから触れ合うことへ。向き合うことのない同僚との接触(もたれかかることとキスは一方的に、セックスは超常現象によって)は拒否される。デートで映画館が休みだったのも、スクリーンを見る=同じ方向を見るという行為をしてしまうから。「また今度来よう」という約束=指切りげんまんという接触をしてから堤防に行き、2人は接触(ハグ)をする。たとえば「未成年じゃないよね」と晩酌に誘うシーンでソファ前に座る久保史緒里とキッチン側から立って話しかける萩原利久たちは、ビールを注ぐ瞬間には立ち位置を入れ替わり、角を挟んで座る。部屋のソファに並んで座らないこと=同じ方向を見ないこと。そこでは見つめ合っているであろう2人の切り返しがうまれる。広島風お好み焼き屋でも角を挟んで座る(だから店主は2人で来てることが分かったのだろう)。ベランダという場所が同じ方向を見せてしまうけれども、触れ合うことによって久保史緒里が外に出ることを可能にしたように、そこは外に飛び出すための装置になっていた。
お好み焼きを2人分用意されたこととか、瓶に入ったプリンは食べて無くなっていることとか、ビールの件が2人の関係性に比例すると言うのであれば、親密の度合いをみせるスマートさ。プレゼントされた靴を履くためにしゃがんだ時の構図=構図の切り返しから「可愛い?」「可愛い…」という久保史緒里=幽霊のクローズアップがすばらしい。久保史緒里と言い合いになった萩原利久がヒートアップしたからパーカーの袖を捲る→久保史緒里を慰めるためにベランダに出ると夜風が肌寒いから袖を戻すという萩原利久の身振りがよかった。
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