masahitotenma

遺灰は語るのmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

遺灰は語る(2022年製作の映画)
3.5
タヴィアーニ兄弟の兄ヴィットリオが2018年に亡くなり、91歳の弟パオロが単独で本作を監督し発表。
①「カオス・シチリア物語」の原作者で1934年にノーベル文学賞を受賞したシチリア生まれの劇作家ルイジ・ピランデッロ(1867.6.28~1936.12.10)の遺灰にまつわる物語と②彼が死の20日前に残した短編「釘」で構成されている。
印象的な音楽は常連のニコラ・ピオヴァーニ。
ベルリン国際映画祭国際映画批評家連盟賞受賞。
原題:Leonora addio(意味:さらば、レオノーラ) (2022、92分)

①遺灰にまつわる物語(モノクロ、ラストはカラー)
ノーベル賞を受賞して2年後、1936年の暮にローマで亡くなったピランデッロは、遺書を残す。
~その内容~
「私の死は密やかに。体は裸のまま布でくるみ、一番粗末な霊柩車に乗せるのだ。火葬にし、遺灰は直ちに撒くこと。私の体は何も残してはならない、たとえ灰であろうと。それが叶わぬならば、遺灰をシチリアに運んでほしい。生まれ故郷の野にある岩石の中に閉じ込めてくれ」

ところが、ムッソリーニはファシズム式に葬儀を盛大にして自分の名声に利用しようとしていた。

「愚か者め!」

さらに、遺言に反して、遺灰は10年間("戦争と恐怖、蛮行と闘争の時代")、ローマのヴェラーノ墓地に留め置かれる。

10年後、ようやく故郷シチリアに帰ることになるが、飛行機や汽車の中などで次々にトラブルに見舞われる…。

15年後に墓石が完成し遺灰が納められるまでのエピソードがアーカイブ映像を交え語られている。

"縁起"
"カード遊び用のテーブル"
"小人の葬式"

「ギリシャ壺に十字を切るなど、絶対におかしい」

~"戦争と恐怖、蛮行と闘争の時代"を描いたアーカイブ映像~
・ロベルト・ロッセリーニ監督「戦火のかなた」
・ミケランジェロ・アントニオーニ監督「情事」
・ヴァレリオ・ズルリーニ監督「激しい季節」
・アルド・ヴェルガーノ監督「イル・ソーレ・ゾルゲ・アンコラ」(太陽はまだ昇る)
・アルベルト・ラットゥーダ監督「Il bandito」
・アルド・ヴェルガーノ監督「赤い愛」
・アルド・ヴェルガーノ監督「アモーレ・ディフィシル」(監督4人のオムニバス映画)の中の「ソルダートの冒険」
・タヴィアーニ兄弟「カオス・シチリア物語」

~登場人物~
・劇作家ピランデッロの声(ロベルト・エルリツカ)
・その娘/成年(エッタ・ピランデッロ)
・シチリア島アグリジェント市の特使(ファブリツィオ・フェラカーネ):壺に入った遺灰を木箱に入れて運ぶ。
・米国空軍の大尉
・"アルザス地方"の"ドイツ人"女性(ジェシカ・ピッコロ・ヴァレラーニ)と恋人
・司教(クラウディオ・ビガーリ)

②短編「釘」(カラー、1部モノクロ)
シチリアから父に連れられ、移民としてアメリカにやってきて6年後、ブルックリンで父のレストランを手伝っている少年が主人公。
ふたりの少女が喧嘩しているところに出くわし、幼いほうの少女を、拾った長い釘で刺し殺す。
おとなたちに問いただされても、ただ"定め"だからと答える…。

"木に結んだ白いスカーフ"

「釘が落ちて少女に刺さったのは"定め"(on purpose)だと。
少女が喧嘩したのも"定め"(on purpose)だと」

「一生君を忘れない。…毎年、訪ねるよ」

~登場人物~
・少年バスティアン・エド/ バスティアネド(マッテオ・ピッティルーティ)
・父トリッド(フェデリコ・トッチ)
・少年に殺される赤毛の少女ベティ(Dania Marino)
・ベティの喧嘩相手(ドラ・ベッカー)
・事件について警察に話す女性(ナタリー・ラプティ・ゴメス)

「時は流れ、人生のシナリオとともに、私たちを連れ去る」

悲惨な事件が起こると、なぜ起こしたのかと理由を尋ねるが、納得できる理由なんてない。
悲劇を起こした人が起こした後に後悔し償なおうとしても、もう取り返しが付かないし、次世代も同じことを繰り返す。
歴史は悲劇の繰り返しであり、神の意図は人間には分からない。ああ、神の名のもとに、どれだけの殺戮が行われたことか!
世界は不条理だが、不条理な世界で、人は悲劇と喜劇の人生を生きる。
そして、老年になって過去を振りかえる時、そこには、アイデンティティの原点となった母なる大地、心を 安らかにしてくれる故郷があるのだ。

タビアーニ兄弟、私のおすすめ
①「グッドモーニング・バビロン!」
②「カオス・シチリア物語」
③「父/パードレ・パドローネ」
③「サン★ロレンツォの夜」
masahitotenma

masahitotenma