こなつ

息子のまなざしのこなつのレビュー・感想・評価

息子のまなざし(2002年製作の映画)
4.0
巨匠ダルデンヌ兄弟監督作品。主演のオリヴィエ・グルメがカンヌ映画祭主演男優賞を受賞。

職業訓練所で少年達に大工仕事を教えているオリヴィエ。丁寧に生徒達に教えているオリヴィエだったが、まるで心を閉ざしているかのようであり、深い闇を胸に秘めているような、決して人を寄せ付けない表情が印象的な中年男性。

淡々と生徒に接するオリヴィエが急に挙動不審な行動に出る。荒い息づかいで階段を駆け下り、窓から何かを覗き見する様子が尋常ではない。そんな彼をひたすら追うカメラワークから目が離せない。

その理由が物語の中で次第に明かされていく。

音楽もなく、美しい景色がある訳でもなく、ただひたすら殺伐とした雰囲気が漂う映像。観ている側も時に苦しく感じるような重い流れ。

訓練所に入所してきた少年フランシスは、オリヴィエの大工クラスを希望するが最初彼は断る。フランシスは、5年前自分の息子を殺した加害者だった。
別れた妻から狂気の沙汰と言われながらも、結局フランシスをクラスに受け入れる。

まるでストーカーの様にフランシスの事を隠れて追い続けるオリヴィエの姿。オリヴィエにとって息子を失った傷は計り知れなく辛いものだろう。妻とも別れ、仕事に没頭することによって、ひたすら孤独と戦ってきたのだ。

そんな彼の前に決して許せない加害者が現れる。動揺しながらも底知れぬ怒りが湧き出てくる。フランシスは熱心に教えてくれるオリヴィエを慕い始めていた。そんな状況に必死に耐えようとする複雑な心理状態を主演オリヴィエ・グルメが見事に演じている。

「お前が殺したのは私の息子だ」

絞り出す真実の先にあるものは、何か?
人の生き様は、時には残酷でありやるせない。それでも乗り越えて生きて行く先に光が見えるのかもしれない。

緊迫感のある緻密な映像、まるでドキュメンタリーフィルムを観ているようなダルデンヌ兄弟の完璧な演出に、最後まで心震える作品だった。
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