こなつ

オールド・フォックス 11歳の選択のこなつのレビュー・感想・評価

3.8
台北金馬映画祭で4冠を獲得した本作。徹底的に役作りをすると言われている台湾の天才子役バイ・ルンイン、「1秒先の彼女」で好演が印象に残るリウ・グァンティン、日本から門脇麦も出演している。

1989年の台北郊外が舞台だが、貧しいながらも慎ましく暮らす父と息子、父の職場のレストランでの光景、近所の人達との交流、豊かではない地域の街の景観など、それらの映像が郷愁を掻き立てるのは、「ALWAYS 三丁目の夕日」や小津安二郎の作品にある日本の在りし姿と似ているような気がしたからだろう。ましてや、バブル経済が弾け多くの人々が苦境に追い込まれた背景は、正に日本の人々も同じ時期を同じように経験してきている。

本作は、多感な11歳の少年が経験する厳しい現実や心を揺るがす大人との出会いの中で、成長していく姿を描いている。当時の台湾の状況がヒシヒシと伝わる映像、裕福ではないけれど心優しい父親と、他人を顧みない資産家との間で揺れ動く少年の姿はとても興味深いものだった。

1989年、台湾バブル期の到来を迎えた台湾。台北郊外の高級レストランで働く父(リウ・グアンティン)と2人で暮らすリャオジェ(バイ・ルンイン)。コツコツと倹約しながらいつか自分達の家と店を持つことを夢見ている。バブルで不動産がどんどん高騰していく中、父子の夢も遠のいて行く。そんなある日、リャオジェは優しくて誠実な父とは真逆の老人シャ(アキオ・チェン)と出会う。シャは、「腹黒いキツネ」と呼ばれている家主だった。勝ち組になるには、他人の気持ちを思いやるな。弱者とつるむと自分まで下に落ちていく。人のことなんて知ったことではないと唱えて決断しろ。勝ち組になる心構えを聞いたリャオジェの心が揺るぎ始める。

1989年でもまだ家主が家賃を各家に回収に来ていたり、株を買うのに直接ブローカーに現金を渡したり、振り込みとかなかったのだろうか、同じ頃の日本とは随分遅れている印象。シャが子供の頃、台湾を占領していた日本人に冷たくされ、そういう経験から腹黒いキツネと呼ばれるまでにのし上がって行ったという経緯も、30年前にはまだ戦争の傷跡が残っていた台湾を知る。

2022年冬、33年後のリャオジェは建築家として成功していた。人生にとって一番大切なものは何なのか、人を蹴落としても幸せになれるのか、負け組であったかもしれないが誠実で優しい父に育てられた11歳の少年の心をかき乱す出会いが、どのように少年を成長させたのか、鑑賞後、監督が描こうとしていた大切なことに思いを馳せる。

門脇麦は、ちょっとしか出演していないが、孤独な人妻を流暢な中国語で熱演。
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