くりふ

コール・ジェーン ー女性たちの秘密の電話ーのくりふのレビュー・感想・評価

4.0
【主婦ジョイがしたこと】

『キャロル』の女性脚本家による監督作品なので、何かありそうとの期待から劇場に行くと…ありました。置き方が正しいかは別として、マイルストーンとなるべきものを置いたことに、意義ありでした。

近しい作品だと『ビリーブ 未来への大逆転』を思い出す。片意地はらない、生き様描写が似ている。

2022年の作品を何故いま?とは思うが、この年、アメリカで人工妊娠中絶権は違憲とされ、各州で中絶の禁止が始まるという流れがあり…逆に今年になって、フランスでは世界初、憲法に“人工妊娠中絶を選ぶ自由”が明記されたそうですから、諸々見直すべき、よい時期と言えるのかもですね。

私は、中絶が殺人かという問題と、産むか否かの問題は別の課題と捉えます。だから中絶の権利は必要。が、本作当時のアメリカでは、そもそも夫婦間の避妊が法で禁じられていた…て、今では驚きの前提があるわけですね。そこから本作に入ってゆくと、その切実さにちょっと、呼吸困難気味になりそう。

とはいえ映画は、あくまで“入門編”としてわかりやすく、面白さ軽妙さを忘れずに仕上がっていました。Jane Collectiveという実在した中絶支援団体については、実際より簡略化して描かれているのですね。

柱となる、エリザベス・バンクスとシガニー・ウィーバーの演技や存在感が、夫々に善かった。ヒロインは典型的良妻賢母で、ある意味、視野狭窄のままで常識を打ち破ろうとする。エリさんは、そんな女性像を矜持をたもち演じ、弱さも孕み、スーパーヒロインに持ち上げてはいません。

思わず苦笑してしまうブラックな現実から、綱渡りのような闘いへとサラッと巻き込まれる“専業主婦”が物語として面白いですが、巻き込むシガニー側の背景も、薄味だがちゃんと響かせてありましたね。

前半、私には強烈だったのは、出産シーンと同じくらい、力こぶを握りしめるように撮られた中絶シーン。…もの凄かった!力こぶの向きはさすがに、流血沙汰『あのこと』とは違っていたけれど。w

ギリギリの状況で入ってくる多数の中絶依頼に、どれを優先するか?という投げかけにも唸らされる。単純に、孕ませた命を殺すな!と断定できぬ事情が節々にある。しかし中絶は時間との勝負でもあり…。

全般、史実を簡略化した分、絵空事っぽい点も出ていますが、伝えるべきは伝えた映画だと思います。

そして私には、後味で“怖さ”の残ることが一番の価値でした。登場人物の危うい言動を含めた、作中から醸される怖さ…そして、そこから現実を振り返ると漂いはじめる怖さ…。

こうした痛みや傷を残しておければ、映画のマイルストーンは、少しでも未来に影響できるのではと。

『主婦マリーがしたこと』も久々、見直したくなったがその前に、U-NEXTに2022年作のドキュメンタリー『ジェーンズ -中絶の権利-』があるので、そちらを先に見てみようかと思います。

<2024.3.24記>
くりふ

くりふ