TAK44マグナム

PARALLELのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

PARALLEL(2021年製作の映画)
3.8
魔法少女は殺人鬼の夢をみるか


オンライン試写にて鑑賞しました。
人間を殺害するばかりでなく、死体をアートの如く飾り立ててネットで公開する殺人鬼が現れる。
「彼」は何故か「魔法少女」のコスプレをしながら犯行に及んでいた。
一方、幼い頃に親から虐待を受けていた少女がいた。
ある日、「彼女」は1人の異常者が両親を殺してくれたことで救済される。
そんな2人が出会い、「生きる意味」を探す純愛残酷ホラー。


思うに「生きる」とは、それ即ち「戦い」。
生存競争がずっと続く「セカイ」。
毎日、毎日、人々は生きるために何かしら戦っています。時には理不尽とも。
戦う敵は上司や友人、そして親かもしれません。更に言えば全ての他者が戦うべき相手なのかもしれない。
そんな世界でたった1人、敵ではない者と出会う奇跡。
それを「愛」と呼ぶなら、きっとそうなのでしょう。


コスプレ殺人鬼というビジュアルから想像する狂気とは一線を画した、切なく儚い物語でした。
勿論、殺人鬼が電動ノコやナイフを振りかざす映画なので血生臭い場面も多数あるし、終盤には大殺戮も行われますが、ゴア描写そのものは比較的おとなしい部類にはいるかと。
それよりも人間の闇にスポットが当てられており、かなり胸糞悪くなります。
可哀想な犠牲者のはずなのに、こんな連中はさっさと肉塊にして色とりどりの電球で飾って光らせてしまえとさえ、暴力的な思考になってしまうのでした。
それを代わりにやってくれるのが主人公なわけですね。
それで世界が変革されるかどうかは別として、劇中では救われる者もでてくる。
賛否両論かと思いますけれど、人を狂わせる社会が現実に存在するのは昨今のニュース等をみても否定できないでしょう。
そしてそれと同じぐらい、人と人は繋がりを、自分を愛してくれる誰かを求めている。
本作はそんな事を思い起こさせてくれました。


それにしても本作の、インディーズとは思えない高いクオリティに驚き。
他者に評価されていないと自分の存在を認めることができないヒロインが、その現状から逃げ出したいのに出来ない、そのもどかしさ・・・巷を騒がせている殺人鬼と知らずに親密になってゆく異形の青春をしっかりと表現していると思います。
劇中に挿入されるアニメまでしっかりとデザインされており、内容に即した音楽も儚げで良いです。
主演の2人の俳優さんもgood。
特に殺人鬼役のかたの声や口調がそれっぽい。魔法少女だけにどこかアニメっぽさも?
それと、理想的な「マスク割れ」が堪能できる作品でもあります。
マスクが割れて、隙間から目が見える。
やはり目は口ほどにモノを言いますから、心情を吐露する場面では有効です。
細かい部分にもこだわりが感じられるのは、それだけ作品に対して真剣な証拠だとも言えますね。
なぜ殺人を犯すのか?の問いもちゃんと用意されていて、それが良い感じに狂った理由で少し驚きました。


愛を知らない2人が愛を知るまでの物語。
ドライに突き放し、ウェットに寄り添う、まさに現代日本らしい青春の寓話。


オンライン試写にて