Supernova

PLAN 75のSupernovaのレビュー・感想・評価

PLAN 75(2022年製作の映画)
5.0
超高齢化社会に嫌気がさした若者による高齢者に向けたヘイトクライムの横行を問題視した政府が《PLAN 75》という75歳以上の高齢者に生死の選択権を与える制度を作った世界のお話。
高齢になり仕事を解雇され住む場所を失いかけている《PLAN 75》への申し込みを検討しているおばあちゃん、《PLAN 75》の申請窓口で働く20代の青年、《PLAN 75》を執行する施設で働く出稼ぎ外国人女性という3つの視点から紡がれる作品。

ありえない精度のリアリズム。リアリティの強度が高すぎて現実と見紛うほどに精緻に出来上がっている。そのリアリズムの一端を担うのは間違いなく現実世界と重なる現象の数々。
少子高齢化、出稼ぎ外国人、貧困、介護、何もかもが鮮烈かつ洗練されすぎていて正直自分には生々しさすら感じて目を覆いたくなる瞬間もあった。先に断っておくとこの作品は血や腸が飛び散るような話ではない。ひたすらに現実の苦い部分を抽出した濃度100%のリアル。それに自然と体が拒否反応を示していた。
超高齢化社会の賜物というべきか、最近は老老介護や、親の介護に嫌気がさした若者が高齢者を殺すという事件はもはやフィクションに限った話ではない。映画だから俯瞰で見ていられたけど、今やこの映画も他人事ではないと改めて実感させられた。

賛否は分かれているものの半ば受け入れムードが世論を占めているこの世界で果たして高齢者は生きることを選ぶのだろうか。人に生得的に備わった権利を手放す勇気、覚悟はあるのか、あるいはその選択肢すら残されていないのか。若者に負担をかけ続けるだけでただ生かされている高齢者はやはり早急に消えるべきなのか。さまざまな葛藤が克明に描写されていた。早川千絵監督の手腕に驚かされたとともに倍賞千恵子の貫禄を見せつけられて鳥肌が止まらなかった。普段は邦画に文句ばっか垂れているような自分ですら有無を言わさず正座で諭されたような気持ちになった。素晴らしかった。

何よりこの制度を取り巻くさまざまな側面が見えただけでなく、人間ドラマとして非常に見応えがあった。制度ができたことによって高齢者は自ずと生と死を強く意識することになるだろうし、その選択があることを良しとするか悪とするかは人それぞれにせよ、人間である以上人肌は恋しいし、生に縋りたくもなる。制度や政治は高齢者の見方をしていても結局のところ人である以上人が欲するものの究極は人と愛情。しかしながら社会は例え高齢者であれ非情だ。高齢者のみならず若者にすら未来がないこの世界に光は刺すのか。
描写が細部まで凝っていてどれほど人間を観察して熟知していればこんな作品が作れるんだと畏怖すら覚えた。例えば爪を切ったあとに切った爪を植木鉢にやるような描写はとてもじゃないが若者の力だけで描けるものではない。そういう人間の細かい動きを詳細に追って吸収してきたからこそこういう作品が作れるのか。
早川千絵監督は今後も追っていきたい監督の一人になったことは言うまでもない。

間の使い方が完璧すぎる。余白の多い作品だが、それ以上に考えることも多く、きちんとその時間を与えてくれる作品だった。映像も洋画のような絵作りで、邦画もまだ捨てたもんじゃないと少し勇気と希望をもらえた。

全てが素晴らしかった。カンヌ国際映画祭でのカメラドール特別表彰も納得の出来。これが長編デビュー作とは今後が楽しみで仕方ない。全てに震えた。今を生きる全ての人に是非見てほしい。

余談だが、自分は公開日の午前中に見に行ったのだけれど、10代と思しき人は自分一人でその他の客は少なくとも40代以上で大半が60代以上に見受けられた。曜日や時間帯からして高齢者が多いのは理解できるけれども、劇場の片隅にすら逃げ場のない現実の惨状を見せつけられて非常に複雑な気持ちになった。
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