しの

PLAN 75のしののレビュー・感想・評価

PLAN 75(2022年製作の映画)
2.8
題材に内容が追いついていない。特に前半はキツいが、それは暗いからとか救いがないからとかではなく、「近未来の日本」に全く実在感がないからだ。生活者の内面も見えてこない。ではドラマではなく架空の制度のシミュレーションに主眼があるかというと、それ程のリアリティもない。残念。

まさに「一石投じたるぞ!」という宣言かのようなオープニングは良かった。しかしその後のカメラ目線でやや不安になり、そして暫くすると登場する2度目のカメラ目線でズッコケる。あのカメラ目線は正直あまり意味がないと思う。人物を描かずに観客に訴えかけられても困る。気概が空回りしている気がする。

群像劇だが、人物配置の意味を見出せなかった。まだ各々に生活感があれば興味深く観れたかもしれないが、近未来日本での暮らし描写に面白さはないし、かといってキャラクターとしても立ってこない。モキュメンタリーにしたいのかドラマが描きたいのか。何でこんなの見せられてんだ感が続く。

この生活描写のつまらなさはテーマにとっても致命的だと思う。軽々しく救いを描かない誠実さはいいのだが、だからといってひたすら暗く重くすれば良いというものでもないだろう。むしろこの題材なら、暮らしにおけるささやかな喜びや笑いなんかが後半に効いてくると思うのだが、一切それがない。ただ追い込まれるだけだ。

しかし個人的には、どんなに絶望的な状況であっても何気ない暮らしに喜びを感じる瞬間があるからこそ、あるいはあったからこそ、それでも生きたいと願うのではないかと思うのだ。しかし、前半の交流でそれが描けているとは思わないし、後半で急に発生するとある交流に至っては流石にやっつけ仕事すぎるだろう。

こうなると、例えば倍賞千恵子が「もうちょっと頑張れると思って」と言って生への足掻きを見せることに実感が湧かないし、かといってプラン75に申し込む動機もよく分からない。生きたいのか死にたいのか。

そもそも、プラン75という制度のメリットが形式的にしか描写されないので、観ていて葛藤が生じない。誰より制作者自身がプラン75に興味がないんじゃないかと感じてしまうのだ。本気で「一石を投じる」のであれば、その制度を本気で恐ろしく、同時に本気で魅力的にも思わせるように描写すべきだと思うのだが、本作は自己責任論や弱者への不寛容に対する「怒り」や「訴えかけ」が先行しているように感じる(もちろん、その怒りは尤もではあるのだが)。

鑑賞後に、もともと短編だったものを長編化したものだと知ってかなり納得がいった。例えば終盤で登場する施設の全体像を意地でも見せないあたりは長編のクライマックスだとキツい。群像劇もただ並置しているだけなので有機的に絡まないし、むしろ互いの掘り下げを邪魔している。

演出に関しても疑問だ。説明台詞が無ければ問答無用で良くなる訳ではないと強く言いたい。むしろ各場面が役割的だ。例えばモニターを消す男に微笑む場面や、PC操作でぶっきらぼうな対応を受ける場面など、確かに説明台詞はないが、演出意図が露骨すぎるし、場面の挿入も唐突なので冷めてしまう。

その他、やけに近視眼的な撮影が続いたり、無駄に長く感じるカットが多かったりするのは自分の生理に合わなかった。どん詰まり感を抱かせつつ、本作の世界を想像させる意図があるのかもしれないが、前述したように、本作のテーマに絶対必要な要素であるはずの「そこに暮らす人々の生活感」を実感できなくしてしまっていると思う。

結果として、本作を鑑賞する人々のうち、この題材に対して当事者意識を持っている層はただその不安を増幅させ、問題意識のある層はその問題意識の再確認にしかならない……ということになりそうだ。当然、それ以外の層にはそもそも届きづらいだろう。折角の題材なのに、今後に発展しづらい作品だと感じてしまった。
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