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僕らの世界が交わるまでの教授のレビュー・感想・評価

僕らの世界が交わるまで(2022年製作の映画)
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大変申し訳ないのだが、俳優としてのジェシー・アイゼンバーグは好きではない。これも大変申し訳ないことで、顔が好きになれないという理由。

ただ本作は概ね素晴らしかった。自分の体調のコンディションも関係しているが、現在の自分にとってちょうど良い塩梅の映画。

今時の自己表現方法。ソーシャルメディアを活用してフォロワー2万人のミュージシャン志望の高校生ジギー(フィン・ウルフハード)と「社会貢献」を生きがいにして、DV被害者のシェルターを運営する母親のエヴリン(ジュリアン・ムーア)の母子とはいえど、価値観の異なる他者というギャップがストーリーの軸。

母と子という人間の、近しさと確実な人格の違い。似ていて腹が立つ部分と、違っていて腹が立つ部分。
その誰しもに共通する家族間の問題が主として描かれる。
その部分についても、映画内のキャラクターの人物の思考や感情に即して物語が動いていく。俳優が演出をするという良さが大きく機能している。

加えてジギーとエヴリンの価値観の対立は、一方で表現の世界における「意義」についての対話としても重層的。
エヴリンや想いを寄せる、意識高く政治的なライラ(アリーシャ・ボー)の「WOKE」的な意識の煩わしさや、PC的な「正しさ」が取りこぼしてしまうエンターテイメントの力と、ジギーの作る歌のような「無内容さ」が取りこぼしてしまうものの両輪を対比させる脚本の力は見事。

作中でも影が薄い父親についても、その影の薄さをチラリとさりげなく表明していくスマートさも目配せが効いている。

ただ、邦題にある「世界の交わり」という部分については、エヴリン側のジギーへの想いの結実は納得がいくが、ジギーの側は挫折感が母親との関係に基づくものではなく片手落ちなのが残念。
しかし、監督一作目としてのクオリティとしては充分な出来で今後も監督作品を楽しみにしたい。
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