Jun潤

ザ・ホエールのJun潤のレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
4.0
2023.04.07

第95回アカデミー賞作品案件。
主演のブレンダン・フレイザーが主演男優賞を受賞。

大学のオンライン講義で教鞭を取るチャーリーは、パートナーを失った悲しみから自暴自棄になり、身体はブクブクに太って、鬱血性心不全を発症して余命幾許もなかった。
そんな彼の元には、友人で看護師のリズ、宣教師のトーマス、かつて家に置いて行ってしまった娘のエリーが訪れていた。
一週間後生きているかも分からないチャーリーは彼らに何を求め、彼らはチャーリーに何を求めるのかー。

ふむふむ、なるほど……。
中盤までの評価を終盤でこんなにも覆してくる作品もなかなか珍しいですね。

今作の描写のキモとしては、序盤からチャーリーが朗読している『白鯨』のエッセイに書かれた、白鯨を狩ることにこだわるエイ・ハブと、白鯨には感情などなく、こだわるだけ無駄だとする書き手、今作におけるエイ・ハブと白鯨は誰なのか、だったと思います。
中盤まではその見た目と相まって、死期を間近にして変わることも、変えることの意味もあると思わせないチャーリーが白鯨で、そんな彼の元に集う人たちこそエイ・ハブなのではないかと思いました。
そしてストーリーが進むにつれて明らかとなるエリーの異常性。
そんな彼女に匙を投げるリズとチャーリーの元妻は、彼女を白鯨に見立てていて、最期にエリーを変えようとするチャーリーこそがエイ・ハブではないかと思いました。
しかし、チャーリーもエリーも鯨ではなく人間で、感情はあるし自分が変わることも他人を変えることもあったということですかねぇ。

そして今作を高評価に押し上げたのは何と言ってもラストシーンに入って怒涛の勢いで回収されていく数々の描写です。
キャラ相関については、登場人物たちよりも観ている側の方が何となく把握できていて、ストーリーが進むにつれてその解像度が上がっていくような仕掛け。
エリーがトーマスを救い、エリーは素晴らしい娘だと感じられたことでチャーリーも救われ、チャーリーの心に何度も安らぎを与えてきたエッセイを、書き手本人による朗読で耳にしながら、最初は無理だと諦めていたエリーの元へ自分の脚で歩いていくことを、達成できたのかどうか、チャーリーの生死も定かではないところで幕を閉じたこともまた良かったですね。
あとはエンドロールへの入りが、チャーリーの姿に合わせて光り輝いていくようだったのがまた良かったです。
Jun潤

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