FODで配信されているクリスティーの代表作のひとつ「アクロイド殺し」の三谷幸喜脚本によるリメイクドラマ「黒井戸殺し」が面白かったので、2015年東京ドラマアワード(NHK・民放連が海外番販の促進を主目的に年間の最優秀連続ドラマ、単発ドラマ、主演男優、主演女優などを選ぶコンペティション)で単発ドラマ部門グランプリを受賞した、同じく三谷幸喜脚本、野村萬斎が名探偵役を演じる「オリエント急行殺人事件」もレンタルし、その出来映えに感銘を受けたので、この1974年オリジナル版も、改めて見返してみた次第・・
アガサ・クリスティーは、従来の推理小説では、特にその意外な犯人像から「掟破り」とされてきた様々なルールを果敢に打ち崩した意欲作を幾つか発表しているが、中でも「アクロイド殺し」「そして誰もいなくなった」「カーテン」、そして、この「オリエント急行殺人事件」は余りにも有名。
この1974年オリジナル版のメガホンを取ったのは「十二人の怒れる男」など数々の作品を指揮してきた名匠シドニー・ルメット。殺人事件の舞台となる豪華国際寝台車オリエント急行の蒸気機関車は車体も内装も忠実に再現して製作され、華やかなワルツに乗って出発する。
そして、これぞ、オールスターキャストと呼ぶのに相応しいスター俳優の競演。メイクが凝りすぎていて個人的にあまり好きではなかったポワロ役のアルバート・フィニー以外は、ハリウッド映画の黄金期を支え続けてきたトップ女優ローレン・バコール、この作品でアカデミー最優秀助演女優賞を獲得したヨーロッパを代表する女優イングリッド・バーグマン、初代ジェームズ・ボンド役のショーン・コネリー、「サイコ」のアンソニー・パーキンス、こちらもオスカー女優のヴァネッサ・レッドグレープ、イギリスの名優ジョン・ギールグッド、フランスの名優ジャン=ピエール・カッセル、輝くように美しかったジャクリーン・ビセットと、まさに国際色豊かな当時の銀幕の大スターが揃い、彼らの演技合戦を堪能できるのは、やはり映画ファンにとっては本当に幸福。原作とは異なる最後の1シーンも、とてもシャレてる。
2017年のリメイク版は、VFX技術が既に発達してしまったため、オリエント急行をCG再現してしまっていたり、どうしても今の時代は、映画俳優に対して昔と比べて親近感が湧いてしまってしまい、たとえジョニー・デップが出演していようが、「ああ、あのDVで離婚調停で大変な人ね」とか頭によぎってしまい、大スターというオーラが見えてこない。やっぱり映画スターの私生活なんて知らないほうがいい。それもこれもハリウッドの映画スタジオシステムが崩壊し、パパラッチがはびこってしまったせいなんだけどね・・
ちなみに、三谷幸喜のドラマ版も、前編・後編に分かれ、実に5時間に及ぶ大作になっているだけあって、実に見応えあり。野村萬斎が狂言師だけあって滑舌も良く朗々とセリフ回しをするので実に役に合ってるいるし、現時点での日本のドラマ界ではトップクラスの役者を集めていて豪華。オリジナル版の部分は前編で解決されるが、後編では、犯人が殺人計画を練っていく様を丁寧に描写していく・・。犯人設定を若干変えており、三谷ワールドなので、まあ一応見て面白かったけど、後編はクドかったかな。来年テレビ放送の、やはりクリスティー原作の映像化「死との約束」は、とりあえず楽しみ。