九月

NOPE/ノープの九月のレビュー・感想・評価

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
4.6
普段はホラーと分類される映画は観ないけれど、自分の思い描いていた怖さとは全く異なり、意外と分かりやすくて面白かった。終始程よい緊張感と不安に包まれながらも、陽気さや楽しさも混在していて不思議な味わい。
途中までは多かった不明点も最後まで観て腑に落ちることが多く、鑑賞後は清々しささえ。しばらくは怖くて目を向けられないかと思いきや、劇場を出て、早速帰りに嬉々として空を見上げてしまっていた。

子どもの頃、地面にいる蟻を見て、蟻からすれば人間はあまりにも大きくて、気まぐれに歩くその人の足の裏からは逃れられないし、そもそも上に何かいるって認識してるのかな?蟻にとっての人間みたいな存在が、人間にもあるのかな?などと変なことを考えていたのを思い出した。
そしてこの映画を観て、大自然の中に放り出された人間ってなんてちっぽけな存在なんだ、と思わずにはいられなかったが、立ち向かうOJ・エム兄妹や、飛び入り参加のエンジェルの姿を見て次第に応援するような気持ちになり、熱くなるものがあった。

未確認飛行物体を撮影して世間に流出したら、好奇の眼差しを浴びることになる…と思うと、OJたちも部分的には、彼らを軽視してきた人たちとやっていることは同じようにも感じたが、カメラマンが欲を出してかえって仇となってからは、そんな思いも消えていた。

ヒト、チンパンジー、馬…多種への驕りや差別(同じ人間同士であっても生じるというのが…)を全面的に感じた。
種を越えて、例え分かり合うことまではできなかったとしても、相手への尊厳を守ったり、関わらないようにしたりして、受け入れられたり見過ごされたりすることはできるかもしれない。それが、人間のエゴや欲などによって侵されるから、悲劇は起き続けるのだと改めて感じた。
調教師ということもあって、そのことを心得ているOJの行動(攻略)や結末に静かな感動が押し寄せる。

正直、一番ゾッとしたのはチンパンジーのゴーディの件だった。その場に居合わせた(当時子役だった)ジュープ(ユティーヴン・ユァン)が何故あんなにさらりとその時のことを語るのか全く理解できなかったけれど、実際にそのシーンを目撃し、のちの彼の行いを見て合点がいった。
幼少期にあんな体験をしたら絶対にトラウマになる、と思ったけれど、そうではなく自分を過信して同じ過ちを繰り返してしまうのだから悍ましい。

この手の映画を映画館で観るってなかなかないので、声とか出ないか心配だったけれど、思っていた程は驚かされなかったので良かった。(同じ列の人が、静かなシーンで結構声を出していたので、むしろその声にびっくりした…笑)
IMAXで観たかったものの、通常スクリーンでも充分満足できた。
九月

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