昨年同じくNTLiveで見て、衝撃的に良かった「リーマン・トリロジー」に匹敵する良さだった。
ただ、こちらは、登場人物が余りにも多く、誰が誰なのか、一家の55年余にあたる歴史で、20年刻みくらいで大きく4つの時代の場面があるので、子どもは成長するしその対応が若干混乱。(帰りに、パンフレットを見て系図を見てすっきりした)このあたりの若干のわかりにくさはそれを含めての物語であっても、少しマイナス。
ウィーンのユダヤ人家族の話だが、結婚相手がキリスト教徒であったり、ユダヤ人であるが、キリスト教に改宗する人あり。
また、1899年から1955年の間を描くことで、当然第一次世界大戦、第二次世界大戦がそこに含まれる。
これを見ていると、ユダヤ人というのは一体何なんだろうって思う。絶対条件はユダヤ教徒であることなのかと思っていたが、カトリックに改宗したとしてもユダヤ人はユダヤ人であったり、クリスマスを祝う時に、家族の中でユダヤ教徒とキリスト教徒がいることはOKなんだとか・・・
19世紀後半の途中までは、おそらくユダヤ人はいろいろな制限が加えられていて、20世紀初頭は自由になったが差別感情は残っていて、そういう状況に葛藤を抱きながら、あるものは改宗することで同化しようとし、ある者はその才能や金を稼ぐことで自分達の存在感を得ようとし、ある者は、別の土地に行くことを考える。
そのあたりのきれいごとでは済まされないリアリズムもちょっとした表情や展開で感じられ胸を打つ。
いろいろ印象的な場面はあるが、ヘルマンが自分と妻の尊厳を傷つけたと将校のフィリッツと対峙する場面、最後ナータンとレオ、ローザの3人がかつて家族がともに過ごした居間で顔を合わせ、それぞれの戦時中の経緯などについて話す場面、ここは見ごたえがある。
家族をホロコーストで亡くしたナータンが辛いのはもちろんだが、イギリス人と再婚した母に連れられてイギリスで育ったレオが、ウィーンでの記憶もユダヤ人としての記憶も無いこと、それに対するナータンやローザのやりきれない気持ち、それぞれの立場での感じ方に共感できるから辛い。
そして、共感、想像はできても本当の苦しみにはなかなか及ばないことも改めて感じる。
劇中で、フロイトとクリムトについての言及がたびたびあり、彼らが当時のユダヤ人社会にあって、ヒーロー的存在だったのだろうなと思う。
特に、クリムトについては、でてくる絵、壁画等があの作品のことだなとイメージが浮かぶだけに興味深かった。
細かい部分で追いきれないところもあったので戯曲を読むとより理解が深まるのかも知れない。