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LOVE LIFEのbuchikenのレビュー・感想・評価

LOVE LIFE(2022年製作の映画)
4.5
「love life」
そのタイトルの出る意表をつくタイミングとジワジワくるその意味。
矢野顕子の歌う「love life」がそれを増幅させるように流れる。
そうだ、自分もこの人達と同じようなもんなんだと気付くと、そのタイトルにいやいやながらも納得せざるをえなくなってくる。
「夫も子供が居ても結局孤独なの」今まさに自分がその境遇におりますが、他の人もそうなんだと思うと安心するし、宗教に救済を求めたくなるのも理解できる。
家族こそが大事とか、絆の象徴とか、良き家族像が強調されがちな昨今の映画作品において、清濁併せ呑む家族像を示しているのは一線を画しているし真理だとも思います。

元夫のパクさんは日本人と韓国人のハーフでろうあ者でもあるという特殊な設定ですが、これが妙子と二郎との間に入ってくる異物として、いい意味で機能しています。
手話は相手の目を見ないと会話出来ないのも(現夫の二郎は人の目を見れない)、二郎には理解できない言語にもなっている為に、彼が疎外感を感じる原因にもなる。
困窮しているのもある程度の説得力が有りますし、それによって彼には助けが必要というのも後の伏線にもなってくる。
韓国に親族がいるのは、おそらく矢野顕子「love life」の中の”どんなに離れていても愛することはできる”の距離の意味を表す為の仕掛けなのではないでしょうか?
2重3重に機能するとても上手い設定だと思います。

物語後半で妙子がとる行動が意外かつドラマチックですが、そこに至るまでの彼女の心理的孤独感は丁寧に積み上げられており、パクさんのとても良い台詞により決定打になるので、不可解では全くなくむしろ自然でもあります。

そしてポスタービジュアルにもなっている、雨の中の脱力しきった表情の妙子と黄色い風船は絵的にも、意味的にも見事に結合していて実に味わい深い!
風船は幸せな気分にさせてくれますが、同時に割れやすく時間が経つと萎んでもしまいます。
幸せは儚い。
一瞬の夢のようでもありますが、追い求めるのをやめられない人の業のようなものでもある。
いろいろな思考を促されるし、片時も退屈することがないという、こういうのが観たくて映画を観ているっていうのを代表するような作品でした。
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