真田ピロシキ

シスター 夏のわかれ道の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

シスター 夏のわかれ道(2021年製作の映画)
3.6
気になってた中国映画。疎遠の両親を交通事故で亡くし、一度も会ったことのない歳の離れた弟ズーハンを親戚から押し付けられた看護師のアン・ラン。アン・ランは医師になるため北京の大学院進学を進めていて幼い弟の面倒など見られるはずがなく、どこか養子に出す気でいる。葬儀に集まった親戚連中がとにかく醜悪で、姪が面倒を見ることを当然のことと疑わず反抗を示されると暴力に訴えようとする叔父(子供も嫌な奴ら)にダメな家父長制の存在をいきなりこれでもかと見せつけられて映画の主題を明確にされる。

伯母も自分の人生を弟のため犠牲にさせられた過去があり、その理不尽を姪世代も引き受けるべきと考えている人物で、反抗的な態度を取るアン・ランに映画が示す道は明らかに見えて泣ける感動姉弟ストーリーには行かないと思った。映像のトーンは彩度が低く硬質で大体において情緒を拒んでいて、たまに熱を帯びることがあってもそれは一時的なエモでしかなかろうと。

血の繋がった他人でしかなかったズーハンにも嫌々ながら一緒に暮らして面倒を見て懐かれていれば情は沸くし、麻雀狂いのダメなもう1人の叔父さんに引き取ってもらうも想像以上にダメすぎて連れ戻すくらいに責任は抱いている。ここまでできてるだけでもアン・ランは若いのに立派な大人である。アン・ランが両親から離れて生きるようになったのは、一人っ子政策の幼少時に男の子が欲しかった父親から2人目の許可を得るため障害者のフリをするよう言われてたことで、家父長制のみならず社会が与えた害を語るのに余念がない。養子縁組を妨害した伯母も最終的には自分の好きなようにやりなさいと背中を押してくれててアン・ランが自分を優先するのは疑いようがなく思えてそれを否定もしないだろうと思ったのだが、なんと養子先からズーハンを連れて生きることを選ぶ結末。

感情としては正しい。だがこれでは結局犠牲になることを選んだとしか見えず、今は良くてもそのうち選択を後悔する日が来ないだろうか。ズーハンも叔父みたいなマチズモ野郎に育ったのでなければ、自分の存在が姉の重荷になったことに引け目を感じるかもしれない。もっと良い落とし所がなかったのか。過去の政策批判と取れる描写が当局に引っかかって感動ストーリーに着陸させたのか?そんな釈然としないものを抱かされる映画に終わってしまった。