おーたむ

さかなのこのおーたむのレビュー・感想・評価

さかなのこ(2022年製作の映画)
4.8
ご無沙汰しておりました。
レビューを投下するのも作品を映画館で観るのも3年ぶりだったようです。
自分でも呆れておりますが、本作はいい感じに琴線に触れてきた作品だったので、備忘録のつもりで記しておこうと思います。

まず称賛したいのはやはり、主人公・ミー坊を演じたのんさんですね。
男性であるさかなクンを女性ののんさんが演じるってどういうこと?と思いながら見てたら「男か女かはどっちでもいい」と出てきたんですが、たしかにのんさん演じるミー坊はどっちにも見えます。
「男に見える」んじゃなく、「どっちにも見える」んです。
これって何気に凄いことだと思ったんですけど、どうなんですかね?
俳優の技術ってこういう表現まで出来るんだ!と驚かされました。
凄かった。

で、おそらくこの設定には意図があって、「心に性差が芽生える以前の赤ん坊のような心を持った人物」の表現としてこういう設定になったんじゃないかなーと私は思ってるんですが、その意図は極めて的確に図に当たってたと思います。
ミー坊の持つキラキラとした輝き、時折感じさせる狂気、どこか浮世離れした天真爛漫さなどは、それこそ無垢な子どものようですし、のんさんはそうしたミー坊の特性を見事に表現していました。
そして、ミー坊のそうした特性は、作品にほんのりとファンタジーの空気を纏わせていたようにも思えます。
のんさんはそれだけ、ミー坊(すなわちさかなクン)が持っているパーソナリティを魅力的に演じるのに適した俳優だったのでしょうね。
お見事。

そして、沖田監督の作る物語のおもしろさも、いつもと変わらず高いレベルで安定していました。
人間の優しい側面を抽出し、時にユーモラスに、時にハートフルに描く監督の筆致は、観る人をハッピーな気持ちにしてくれます。
加えて本作は、単純に笑えるようなコミカルなシーンも多く、いつもよりもクスクス、ニコニコしてしまったような気がしますね。
タコ、カミソリモミー、歯医者、お母さんの告白…と、声を出して笑える場面が盛りだくさんでした。
楽しかった。

しかし、何より感じたのは、本作はさかなクンの思いがきちんと詰め込まれた作品なんだな、ということです。

ミー坊は、お魚さんへの愛に関しては誰にも負けないけれど、勉強も出来ないし仕事も出来ない人物として描かれています。
ミー坊をより広い世界に導いてくれるのは、いつだって周りの人たち。
つまりさかなクンは、「周りの人たちの助けがなければ今の自分はなかった」と言ってるわけです。
少なくとも私はそう受け取りました。
さかなクンの謙虚さと、深い感謝の念が感じられます。

そしてもうひとつ、感謝の念とともに、さかなクンの信念も強く感じました。
作中終盤にミー坊が発する「好きに勝るものなし」という言葉は、明らかにさかなクンから観客である私達に送られたメッセージです。
好きを突き詰めれば道は拓ける。
実際にそうやって道を拓いてきたさかなクンが言うからこそ、この言葉には強烈な説得力が宿っています。
本作が優しい物語であることは間違いありませんが、最後の最後に私達の背中を押してくれるような力強さも兼ね備えた作品だったなと思いました。
大満足。

ということで、3年ぶりに映画館で観た作品は、映画館で観るだけの価値がある作品でございました。
てゆーか、実写の邦画をスクリーンで観たのは初めてかもしれない。
これを機に、また映画鑑賞を趣味にできるといいなあ。
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