おーたむ

9人の翻訳家 囚われたベストセラーのおーたむのレビュー・感想・評価

3.8
ナイブス・アウトのレビューに、こちらの方が好みというご意見があったのを見て、そんなにおもしろいのかと思い観賞。
たしかにこちらもおもしろかったですね。

世界的ベストセラーを誇るミステリー最新刊の翻訳のために、9人の翻訳家が地下シェルターに集められますが、絶対の機密だったはずの小説の内容の一部が流出します。
流出した内容から考えるに、犯人は9人の中にいるとしか考えられないのだけれど、でははたして犯人はいったい誰で、その者の意図と動機はどんなものなのか…?
という具合に、そもそも設定がいかにもミステリー風味で興味を引きます。
「人気作家の新作を翻訳するために翻訳家たちを地下に隔離して作業させた」という部分は実話から着想したとのことですが、上手くアイデアにしたなと思いました。

展開もスリリングでよかったです。
流出犯は「金を払わないと続きの部分も流出させる」と脅迫してくるんですが、9人の中に犯人がいると仮定した場合、現状は犯人を軟禁しているも同然の状況なので、9人を集めた出版社の社長はもちろんこの要求を突っぱねます。
しかし、そうこうしているうちに小説はどんどん流出し、それに合わせて犯人捜しもエスカレートしていき、ついには…と、少しずつ確実に、状況は切迫していきます。
こうしたタイムリミットサスペンス的な要素に加え、真相を小出しにする構成、105分という短い尺なども相まって、画面から目を離せない作品になっていたと思います。
エンタメとして、よく出来てました。

もっとも、この手の作品にありがちな強引さも多少感じさせる作品なので、そこが気になる人もいるかもな、とは思いました。
「ここは偶然に頼りすぎてるよな」とか、「これって本当にする必要があったことなのかしら?」とか。
まあ、辻褄合わせに力を注ぎすぎて作品自体がこじんまりしてしまっても本末転倒ですし、ここら辺の塩梅はきっと難しいんでしょうけどね。

とはいえ、初見で感じるスリルと驚きは、エンタメスリラーとして求められるべきレベルを十分に備えた作品だとも思います。
私も適度なハラハラと、ほどほどの知的愉悦を味わわせてもらいましたしね。
そもそものシチュエーションがおもしろいし、上映時間も長くないし…と、けっこう取っつきやすい作品じゃないでしょうか。
ジャンルにおける佳作。
おーたむ

おーたむ