1955年製作。封建制度の下に二度恋愛を挫折する東千代之介の悲劇に、先の大戦で失われた青春像が重ねられているのが、だんだん分かってくる。そういえば前半を占める恋愛パートは髷をつけた時代劇調で、高校生か大学生のデートみたいだった。男と天下国家語るより好きな女の子と喋ったり、お母さんに親孝行してるほうが好き、主人公はそういうタイプの美青年で、だけど歴史は否応なくそういう人間まで飲み込んで殺してしまう。同じ原作の岡本喜八『侍』はずっと男たちが怖い顔をして策謀している政治映画だったが、こちらは青春映画の形で、そういう男たちの政治がいかに女たちを踏みにじり苦しめているかを、男たちの政治に馴染めぬ(生い立ち自体が政治的な犠牲にある)心優しい一人の青年を中心に据えることで描いている。佐々木監督後年の流麗なタッチからは程遠いが、お得意の歌謡映画の手法を取り入れつつ、心のこもった誠実な映画作りが感動をもたらす。