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チューズ・オア・ダイ:恐怖のサバイバルゲームのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.3
 麻薬中毒者の母親を一人家に残し、IT企業「Kismet」で深夜の清掃業務をこなすヤング・ケアラーのケイラ(アイオラ・エバンス)は朝方に疲れた様子で帰路に就く。かつては幸せな家庭だったケイラの家にもはや父親はおらず、弟を不慮の事故で亡くし、そのせいで母親は麻薬に溺れ、深刻な中毒症状を患っている。ケイラには信頼出来る家族はおらず、女友達はおろか、たった一人心を許せる男友達のアイザック(エイサ・バターフィールド)がいるだけだ。彼は80年代のテクノロジーを愛するオタク少年で、プログラマーを目指しだだっ広い部屋で勉強中の身だった。そんなボーイ・ミーツ・ガールな2人が突然、「CURS>R」というゲームを起動させたことからとんでもない恐怖に巻き込まれる。明らかに黒沢清の『回路』もしくはそのリメイクである『パルス』に影響を受けたとおぼしき物語はその実、『SAW』シリーズのような極限のデス・ゲームに主人公を誘う。『回路』が単純に言えば、『リング』の呪いのビデオをインターネットの世界に現出させたとすれば、今作はその精神性よりもむしろ、誰かが神の視点で操りながらインターネットの世界を易々と飛び越えて現実世界に危害を及ぼすのだから堪ったものではない。

 レトロ仕様なのかそれとも単なる『マトリックス』からの影響なのかよくわからない黒背景に緑文字の羅列を、監督のトビー・ミーキンズはどこまで意図してやったのかはよくわからない。そもそもインターネットの精神性と、VHSやベータなどのテレビ受像機にまつわるハードの発展とを並列なものとして扱ったのがそもそもの誤りではないか。ダイヤルアップ接続の原理を辿るようにしてその真相に迫るというアイザックの判断は極めて効果的だが、その犯人捜しのアクションそのものはインターネット以前の「サイコパス探し」で、目新しさなど皆無だ。ISDN網そのものに呪いが憑依した『回路』を手に負えないほど最強な恐怖だとすれば、ゴミ山から青年が拾って来るまでは人の目にすら触れなかった「CURS>R」など恐るるに足りないほど最弱で、ホラー映画のほんのきっかけとなる思い付きのアイデアに過ぎない。更に致命的なのはケイラが辿り着いた結束点で、時世が果たして84年なのか2022年なのかさっぱりわからないことだ。プッシャーと主人公の関係や、そもそもIT企業と言いながら机も椅子も一つも並んでいないオフィスの奇妙さなど沢山の伏線めいた伏線が張り巡らされていながら、85分の物語にはそれらを語り切る時間など残されていない。インターネットの恐怖よりも、ガラスをパクパクと口に放り込む人間の方がビジュアル的に怖いのは当然と言えば当然で、続編もやる気満々らしいがそもそもの設定の推敲が求められる。
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