Pinch

ロストケアのPinchのレビュー・感想・評価

ロストケア(2023年製作の映画)
4.2
「だけど僕には、これ以上何を頑張ればいいのか、分かりませんでした。このとき気づきました。この社会には穴がありているって。一度でも落ちてしまったら、この穴から簡単には抜け出せない」
「安全地帯にいるあなたには穴の底で苦しむ人たちの気持ちは分からない。...あなたみたいに安全地帯からきれいごとを並べる人間が、穴の底を這う人間を余計に苦しめるんです」

この映画の意義は、斯波の犯罪と彼の処遇を扱ったことにではなく、紛れもない現実を明言したことにあります。貧者にとっても、富者にとっても、安全地帯は崩壊しつつある。はびこる新自由主義。成果を出せない連中などどうなっても知るものか、俺はあんな奴らとは違うんだ!…というわけです。こういう人たちの居場所も次第に削り取られ、権力を持つ階層に醜く媚びへつらうしかなくなっている。現行の政治の在り方は、この国を悲惨な事態に突き進めるだけ。まあ、世界のどこででも起こっている話といえばそれまでですが、これでいいはずがない。とにかく、とても厳しい状況が口を開けて我々を飲み込もうとしていることを再確認できる映画だと思います。

個人的な好みの問題に過ぎませんが、最後に流れる曲はちょっと…。『わたしは、ダニエル・ブレイク』も同様のテーマを扱い、より自然な形でつらい現実を描いていましたね。
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